たとえばこんなPrecious days 〜テッサの場合〜





<あなたに会えますように>
 祈りにも似た願い。
<せめて、夢の中で>
 その祈りを抱いて、私は眠りについていた。
 そう、あの日までは。


「はぁ・・・・・・」
 天を覆い尽くす星。この星空を彼と二人きりで眺めることが出来たなら。
 どんなに素敵だろうか。
「でも、サガラさんは今日もカナメさんの護衛ですし・・・・・・」
 自分に、言い聞かせるように。
「仕方、無いですよね・・・・・・」
 微かにわき上がる嫉妬。それを認めるのが怖くて、もう一度空を見上げる。
 降る様な星の下、自分一人だけ。側に誰もいない。
 一番側にいて欲しいひとは今、別のひとの側にいる。
 でもそれを命じたのは自分。突きつけられる現実−。
「サガラさん・・・・・・会いたい、です・・・・・・」
 心が乱れる。このままじゃいけない。
 深呼吸一つ−途中で溜息に変わる。
 会いたくて、会えなくて。狂おしいほどの想い。
 それを癒してくれるただ1人のひと。そう、彼が側にいてくれたら。
 それだけでいいのに−ただ、側にいてくれるだけで・・・・・。
 涙が頬を伝う。心が・・・・・・痛い・・・・・・。
「大佐殿ではありませんか。どうなさったのですか?」
 不意に聞こえる、ここにいないはずのひとの声。
 逢いたくてたまらなかったひとの声。
 無愛想だけど、優しい声。
 そして全てを癒してくれる声。
「サガラさん?何であなたがここに?」
 嬉しいけど。本当は嬉しいけど。
 でも、思考のどこかが『ミスリルの大佐』のまま。
 カナメさんの護衛は、どうなっているのか。
 それが気になる自分が−少し、哀しい。
「は。マオにたまには休め、と言われまして」
 彼は言葉を続ける。
「千鳥の護衛はマオが行っていますので、心配はないでしょう」
 なら、問題はありません、ね。でも・・・・・・
「でも、どうしてここに?」
 最大の疑問。何故彼は私がここにいると解ったのだろう?
「は。マオに20時頃、島の南側の浜辺に行け、といわれまして」
 あ・・・・・・同じ、時間。同じ場所。
「星が綺麗だし、良いことがある、と」
 そして、同じ台詞。
「メリッサ・・・・・・ありがとう・・・・・・」
 私の願い。それを叶えてくれた彼女に感謝した。
 −感謝しても、しきれないけど。
「サガラさん、とりあえず座ったらどうですか?」
(私の、隣りに)
 言えない言葉。伝えられない想い。そんな想いを知ってか知らずか、
「は、失礼します」
と彼が座ったのは、すぐ隣り。
 多分護衛のことを考えてだろうけど、それでも嬉しかった。
 すぐ側に彼が居る。望んで止まなかった光景。
「綺麗な、星空ですね」
 サガラさんが呟く。
「ええ、本当に・・・・・・」
 ふと隣を見れば貴方がいる。それだけで満足だけど。
 でも、今だけは。恋人のように。
「ちょっとだけ−このままで居させて下さい・・・・・・」
 頭を彼の肩に預けてみる。
 僅かに伝わる戸惑い、そして、微かな−だけど確かな温もり。
 夜空には満天の星。
 浜辺には優しい風。
 今だけは−そう、今だけは。
 貴方以外の誰も知らない私になって、貴方に恋をしていたい。
 そう、私−恋をしています・・・・・・貴方に



 あの日の出来事は、私にとって大切な宝物。
 思い出すだけで嬉しくなるのに。
 どこをどうしたのか、メリッサはあの時の写真を持ってきてくれた。
「マデューカス中佐に見付かったらうるさいから、この写真、隠しときなよ」
なんて、ちょっと照れた表情で。
「じゃ、ね。いい夢を」
 それだけ告げてメリッサは自分の部屋に戻っていった。
 私は早速写真を写真立てに飾った。
(普段は・・・・・・そうですね。あの絵葉書で隠しておきましょうか)
 写真を見ているだけで思い出せる。
 彼のぬくもりと、鼓動が。
 私はベッドに倒れ込む。幸せな気分で。
 そして私は思い出と写真、そして祈りを抱いて。
 あなたに会うために夢の中へと。



 テッサ編です。
 まず浮かんだのはラストシーンのフレーズ。
「私−恋をしています・・・・・・あなたに」ってところ。
 あと、ぽす、ってベッドに倒れ込んで写真を幸せそうに見ているテッサ。
 これがトリガーでした。
 たまにはいいっしょ?こんなんも。