たとえばこんなPrecious days〜かなめの場合〜



「君しか頼れる相手がいない。俺を・・・・・・助けてくれないだろうか?」
 大体想像が付いたので、
「何?あたし、今日忙しいんだけど」
 ってわざと素っ気なく言ってみる。
「古文の宿題を手伝って欲しかったのだが」
 なんだか困った顔してる。
「君が都合が悪いのなら仕方がない。他の誰かに頼むとしよう」
 がっくりと肩を落として立ち去ろうとするソースケ。
 たれた耳と力無く揺れるしっぽが見えた−様な気がした。
(これ以上いじめるのも可愛そうかな?)
 ぐっと笑いをこらえ、
「待ちなさいよソースケ!本当、しょうがないんだから・・・・・・」
 渋々、といった風に呼び止めてみる。すると、
「それでは、手伝ってくれるのか?」
 とたんにソースケの表情が明るくなる。
 ぴんと立った耳、ぱたぱたと元気良く振られるしっぽが見えた−様な気がした。
 うーん、やっぱり犬っぽいなぁ。思わず
「お手!」
 とか言ってしまいそう。
 色々な表情を見せてくれるソースケ。
 格好良かったり、悪かったり。
 側にいて飽きないのは事実。
 ソースケのこと、好きか嫌いか、と問われたら多分好きなんだと思う。
 でも、それがどんな『好き』なのか−まだ解らない。
 彼女ははっきりとソースケが好きだと言ったのに。
 その『好き』は特別な『好き』だということは解っている。
 でも、あたしはまだ−答を出せないまま。
 答を出さないまま、ソースケの側に−居る。
 あたしはソースケの側にいてもいいのだろうか。
 ソースケはあたしの側にいることをどう思っているのか。
 微かな疑問が産まれ、育っていた。
 あたしの意志を無視するほどに。
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「ただいまー」
 家に戻るなり、ベッドに倒れ込む。
 机の脇のコルクボードに数枚の写真。
 ソースケをハリセンでどついてるあたし。
 嬉しそうにトライデント焼きをぱく付いてるソースケ。
 キョーコ、ミズキ、オノDとソースケ、そしてあたし。
 終わることのないお祭り騒ぎの毎日。
 いつの間にか当たり前になっている光景。
 ソースケが側にいる、その事。
 その事が、当たり前になってる。
「こうしてると、ただの戦争ボケなのにね・・・・・・」
 そう、あいつの本業は学生じゃない。
 傭兵集団『ミスリル』の一員。その中でもトップクラスの戦闘力を誇る、SRT。
 住んでいる世界が・・・・・・違う。
 だから、いつかアマルガムの脅威が無くなったとき−あいつは本業に戻る。
「嫌・・・・・・だな・・・・・・」
 こんな日々がずっと続けば。
 そう思っているのは事実。
 そうはいかないのが現実。
「らしくないなぁ・・・・・・」
 本当、らしくない。
 深呼吸。
「よし、元気!」
 ソースケが来るまであと2時間。どうせおなか空かせて来るんだろうな。
 仕方ないなぁ。
 仕方ないから−肉じゃがでも作ってあげよう。
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 ソースケが来てから1時間。
 宿題は難航している。
 やっと半分出来たところ。
 悩んでいるソースケ。
 それを見つめるあたし。
 心が緩んだのだろうか、あたしは疑問を口にした。
 ・・・・・・いや、してしまった。
「ねぇ・・・・・・ソースケは、あたしといて・・・・・・楽しい?」
 驚いたような表情。
 後悔。
 訊かなきゃよかった。
 でも、訊きたかった。
「・・・・・・肯定だ。俺は多分・・・・・・楽しんでいるのだろう」
 ムードの欠片もない答え。
 でもあたしが欲しかった答え。
 やだ・・・・・・あたし、泣いてる?
「どうしたんだ、千鳥?」
 おろおろとしてる。なんだか嬉しくて、楽しくなった。
 戦場じゃあんなに頼りになるのに。
 ミスリルの時は凄く格好いいのに。
 今、このソースケはあたしだけが知ってる。
 他の誰も知らない、あたしだけのソースケ。
 いつか訪れる喪失の予感。
 胸を締め付けていた不安。
 それらが溶けていくのを感じる。
 だからもういつものあたし。
「なんでもないわよ!ほら、ソースケ!宿題ちゃっちゃと終わらせちゃお?」
 涙を拭う。
「肉じゃが、作ったから、さ。宿題終わったら一緒に食べようよ」
「うむ」
 少し嬉しそうに、ソースケ。
 学校の誰も知らない、こんな嬉しそうな表情をあたしだけには見せてくれる。
 それが、素直に嬉しいって思った。
 なんか−いいよね。こんなのも。どたばたしてるときも楽しいけど、ね。
 お祭りも楽しいけど、祭りを抜け出すのも楽しいようなものかな?
 この『好き』は、特別な『好き』?
 それとも、ただの友達の『好き』?
 まだ解らない。
 まだ解らないけど、確かなことがある。
 言葉にするのは悔しいから、まだ言ってなんかあげないけど。
 でも、いつか伝えたい。
−ソースケと出会ってからの毎日…とても大切な、本当に大切な宝物だよ−




かなめ編。
書いちゃいましたよ、思わず。
やっぱりかなめも不安もあるかな、と。
これからどうなるの、とか任務が終わったら、とか。
そう考えたらつい、ね。
でもやっぱり自分的ヒットは「ソースケと出会ってから〜宝物だよ」かな。