朝の優しい光の中で





第一章 悪夢のような現実を

 手紙を爆破したと言われて。
 そして彼に銃を向けられて。
 ただ悲しくて―悲しすぎて。
 世界から色彩と音が消えた。
 初めて好きになった人なのに。
 そんな人なんて思わなかった。
 私は―彼の前から走り去った。
 私の初恋を殺した人の前から。

 酷すぎる―そう思った。
 夢だと―思いたかった。
 今日の出来事の全部が。
 本当に夢なら良かった。
 でもこれは変えようのない現実。
 涙が溢れ出して止まらなかった。
 私は泣き続けた―朝までずっと。
 その次の日―私は学校を休んだ。


第二章 いっそ忘れてしまいたいけど

 でも後日私は―彼の生い立ちを知ってしまった。
 だから解った―あれが彼の日常だということに。
 それはいつでも命の危険にさらされていたから。
 それは自分を守ってくれる存在が無かったから。
 自分の命を守るのは自分だけだったから。
 だから些細な事に過剰に反応してしまう。
 私は今ごろやっと気付き―そして泣いた。
 彼の心の傷がただ辛くて―朝まで泣いた。


 ずっと私は後悔していた。
 でもそれは今さらのこと。
 自分の言葉で彼に伝えなかったこと。
 彼の前から逃げ出してしまったこと。
 本当の彼の姿を見ていなかったこと。
 彼の深い心の傷を知らなかったこと。
 でもすべて今さらのこと。
 忘れよう―彼への想いを。


第三章 自分に嘘はつけなくて

 相変わらず彼はあの彼女に追われている。
 関係ないこと―私には全然関係ないこと。
 でも気が付くと彼を目で追いかけている。
 この恋はもう死んでしまったはずなのに。
 この恋を殺したのは彼のはずなのに。
 目が合っただけで喜びに心は踊った。
 彼女と一緒の姿を見ると心は痛んだ。
 二人は―付き合っているのだろうか。

 仲はいいけど付き合っていない。
 人づてに聞いて感じたのは安堵。
 どうしよう―私…やっぱり彼のことが好きだ。
 この想いはもう止められない―止めたくない。
 私が彼に何をしてあげられるか解らないけど。
 それでも彼と一緒にいたい―それが私の願い。
 だから神様―私に勇気を下さい。
 彼にもう一度話しかける勇気を。


第四章 そして優しい光の中で

 新しい朝―とても優しい朝。
 私はもう―迷ったりしない。
 貴方と一緒に歩きたいから。
 鏡の前で笑顔を作ってみる。
 彼に向けるための最高の笑顔を。
 大丈夫―笑顔で話しかけられる。
 最高の笑顔で―大好きな貴方に。
 世界中の誰よりも大切な貴方に。

 月曜日の朝の校門―私は貴方を待つ。
 心臓が高鳴る―待っているだけでも。
 貴方が見えて来る―深呼吸一つ。
 声を掛ける―貴方は驚いている。
 そんな貴方に私は笑顔を向けて。
 貴方の手を引いて教室に向かう。
 私の本当の気持ちは―今はまだ秘密。
 でもいつか伝えよう―いつかきっと。





 というわけで佐伯恵那編です。
 普通は恨んだりするんでしょうけど、でも、ね。
 ・・・本当は98年7月号見てこけたんですけどね。
 こんなんも有りかな、って思ったのも事実。
 ミスリルとか、ウィスパードとかと関係ない、ごく普通の高校生。
 彼女との恋、ってのも有りなんじゃないか、って。