陰火





「あ・・・・・・ああああああああっ!」
 俺は哭いていた。血を吐くほどに。
 大切な人だったものを抱きしめて。
「殺してやる・・・・・・みんな、殺してやる・・・・・・!」
 人の流れが穏やかなこの街で、俺は確かに幸せだった。
 ずっと幸せでいられるはずだった。
 しかし−この街が突然戦場に変わり−俺は奪われた。
 還る場所を。大事な存在を。
 あれから毎日悪夢を見る。あの時の夢を。
 そのたびに強く思った。
 救助隊がもう少し、早く来てくれていたなら。
 せめてもう1日、早かったなら。
 しかし、彼らが到着したのは−俺達が大切なものを奪われた後だった。
 帰国してから連日。
 政府は責任の擦り付け合いをしていた。
 マスコミは俺達の様子を面白おかしく報道し続けた。
 そして−他の奴らは見ていただけ。
 何をするでもなく、見ていただけだった。
 だから−
「俺は壊す−全てを・・・・・・!」
 思えばあの日、俺の心は砕け散ったのだろう。
 そして俺は破壊した。
 何もしてくれなかった政府を。
 ただ見ていただけの奴らを。
 俺たちを食い物にしたマスコミを。
 奴らの命を喰らい続けた。
 しかし心は渇き続けていた。
 ずっと何かを求めていた。
 それは−還る場所だったのかも知れない。

 しかし俺はその場所を破壊した。
 還る場所となり得る人の命を奪った。
 しかし−それでもいい。
 安らぎを求める心なんか捨ててしまった方がいい。
 失うのなら最初から持たない方がいい。
 それに俺は安穏としているわけには行かない。
 なぜならあの日、俺は誓ったのだから。
 俺が壊れるまではこの世界の全てを壊し続ける、と。
 俺の心の中、炎は燃え続けている。より暗く。より強く。


 今日もまた戦闘がある。
 俺は輸送機の中、心を研ぎ澄ませていた。
 正直言って、俺は作戦目標などどうでもいい。
 俺は壊すことが出来ればそれでいいのだから。
 そう、全てを壊し、そして狩る。
 それが俺の−
「俺の、成すべき事・・・・・・」
 そして戦闘開始前、チームを組む奴が不意に尋ねてきた。
「あ、そうだ。あんたのこと、どう呼べばいいんだ?」
 ・・・・・・煩わしい。
 しかし−答えないわけにも行かないだろう。
 僅かな沈黙の後、俺は短く答えた。
「・・・・・・ガウルン」


 そして時は流れ−物語が始まる。




−ちょっとシリアスにやってみました。
「ガウルン編ですか・・・。なんだか暗いですね」
−だってあったじゃない。『陽気になったな』って台詞。
「以前は暗かった、と」
−いや、むしろ無気力。ただ機械的に人を殺してた、とか。
「でも、手を広げすぎですよ。恵那嬢編とそーかな、最近書いてないでしょ?」
−う。そのうち書きます。
「出来るだけ早くね」
−はい・・・・・・