〜Reunion〜





 2学期の始業式。
 宗介は1人の少女のことを思い出していた。
 <ミスリル>の捜査官が命をかけて救い出した彼女のことを。
 彼女はウィスパードだった。
 そのため彼が救出するまで生きたデータベースとなっていた。
 しかし救出したときには−心が壊れかけていた。
 重度の薬物中毒、と聞かされた。
 辛かった。何もできない自分が。
 許せなかった。彼女の今を奪った奴らが。
 だから宗介は頻繁に彼女を見舞っていた。
 見舞いの度に色々な話をした。
 自分のこと。学校のこと。友達のこと。
 彼女が求めるままに、宗介は話した。
 徐々に良くなっていく彼女。
 次はどれだけ回復しているだろうか?
 それが楽しみになっていた。
 そしていつしか気になっていた。
 彼女が不意に見せる笑顔。
 それが二度と失われないことを願った。
 そして見舞いは彼女の症状が落ち着き、郊外の病院に移されたあとも続いた。
 もっとも最近はいろいろあったせいで見舞いに行けなかったが−順調ならばもうそろそろ退院だろう。
(1ヶ月、か。この前会ったときは大分良くなっていたが。今日あたり、行ってみるか・・・・・・?)
 宗介は空を見上げ、想いを馳せた−彼女に。
「どしたの、ソースケ?」
 問いかける千鳥かなめの声にも気付かないほどに。
「ねぇ、どーしたのよ?」
 蒼い空を。ただ見ていた。
 同じ空の下にいる。
 いつか彼女は戻ってくる。
 その日を宗介は祈った。
 強く。強く。
 そして不意に現実に戻る。
「どしたの、っていってんでしょーが!」
 かなめがハリセンを振り抜いた。快音が響き、空まで届く。
「なかなか痛いぞ」
 痛いのか痛くないのか、変わらない顔で宗介は抗議した。
「あったりまえでしょ!痛くなるように叩いたんだから。それより、どうしたのよ?なんか変だよ、今日のソースケ?」
 本当に心配そうに、かなめ。
「いや、なんでもない」
 彼女のことが気になっただけだ。
 その言葉は紡がれることはなかった。
 何故か言ってはいけない気がした。
 微かな後ろめたさ。
 彼女に大して秘密を持っている、その罪悪感。
 しかし言えない。そう、何故か言えなかった。
 悩みの色を微かに浮かべている宗介に、
「相良相良!」
 クラスメートの小野寺が犬の様に駆け寄ってきた。
「どうしたというのだ?」
「すっごい可愛い子が転校してきたって!見に行こうよ!えっとね、名前は・・・・・・」
 デジタルカメラ片手に興奮している風間。
 しかし宗介は窓の外に目を向け、素っ気なく答えた。
「・・・・・・遠慮しておこう。さしたる用事もなく他の教室に行くのは気が進まん」
「つれないなあ。ま、仕方ないやね。おっし、皆の者、付いて来い!」
 小野寺が号令をかける。ごく一部を残し、男子達は転校生の教室へと向かった。
「あんたって本当、そういうの興味示さないよねー♪」
 何故か嬉しそうにかなめが呟く。
「まあ、な」
 宗介は曖昧に応え、窓の外に目を向けた。
 空を見上げる。蒼く−どこまでも蒼く澄み渡る空。
 彼女は今頃どうしているだろうか?
 何故かその事が気にかかった。
 彼女の名前は−
「たっ!高梨さん!」
 高梨湊、といったな。
「高梨さん、なんでこの教室に?」
「逢いたい人が・・・・・・いるんです。ここに・・・・・・」
 男子が周りで騒いでいる。
 彼女は彼らを気にすることなく、教室を見渡した。
 そして視界に入ってくる。
 ずっと逢いたかったひと。
 ずっと求めていたひと。
 いつの間にか心に住んでいたひと。
 そのひとはただ空を見上げていた。
 むっつりとした顔。
 への字口。
 微かな哀しみの色を湛えた瞳。
 あの日より、少しだけ優しくなった横顔。
 抱きつきたくなるのを我慢する。
 彼女は彼にゆっくりと近付き、そして。
「宗介さん・・・・・・逢いたかった・・・・・・」
 ようやくそれだけを告げた。
 宗介は少し驚いたような顔を見せた後、微かに微笑い−告げた。
「俺もだ−湊」





「勝手に名前付けてるし」
−だって仕方ないじゃないか!便宜上でも名前付けなきゃ!
「まぁ、いいですけどね・・・・・・」
−まぁ、給湯室では花園 瞳(はなぞのひとみ)と呼んでいるらしいが
「そっちでも良かったのでは?」
−いや、せっかくだし。どーせここオフィシャルじゃないからいいかなーと。
「オフィシャルな名前が出てきたらどーするんですか?」
−あ゛。