そして俺は――光に、消えた。
 運命を変えるために。
 哀しい連鎖を断ち切るために。
 そのはずだった。



そして空へ



 海風が頬をなで、俺は目覚めた。
 と同時に、生きていることを再確認した。
 心臓の鼓動。
 呼吸。
 それらが俺がまだ生きていると言うことを伝えてくる。
 俺はゆっくりと目を開けた。
 ・・・妙に視界が低い。
 そうか。寝ているからだな。
 俺はそう結論し、立ち上がった。
 しかしそれでもなお視界は低いままだ。
 俺は自分の手を見た。
「・・・・・・ぴこ?」
 なんだこれは、と言ったつもりだった。
 ・・・夢じゃない。
 夢じゃないのか?
「ぴこぴこぴこ〜!」(何だってこんな妙な生き物にならなきゃいかんのじゃ!)
 そう。
 俺は謎の生命体「ぽてと」になっていた。


 まずは落ち着いて自分が誰であるかの確認だな。
 えーと、俺の名前は国崎往人、旅の人形使いで、目的は・・・
 何だったっけ?
 もう一回!
 俺の名前は・・・あれ?
 えーと、えーと・・・
 思い出せん。
 っていうか、俺、何でこんなこと考えてんだ?
 ああなんかもうどうでもいいや。
 と、加乃の声が聞こえた。
「ぽてと〜散歩にいこ〜」
 お。
 散歩か。行かねば!
 そして俺は奴に出会った。
 なぜか懐かしく、親しみを感じずにはいられない、黒ずくめの男に。
 

 あいつと会ってから数日後。
 俺は散歩に出ていた。
 こんないい天気に散歩しないってのはお天道様に申し訳ない!
 そしていつもの商店街。
 ・・・を。
 今日もやってる、あいつ。
 あらら。人がいない。
 稼げてないのか・・・
 仕方ねぇなぁ。
 ここは俺が力を貸してやらねば!
 なんかこいつ、放っとけないんだよな・・・
 俺は奴の側に行った。
 そしておもむろに立ち上がり、踊り始める!
 れっつだんしんぐだぜぇ!
「ぴこぴこぴこぴこ〜♪」
 おお、いい感じだ。
 だんだんノって来たぜ!
 む、親子連れか!
 俺の魂のダンスを見やがれぇぇぇぇ!
「ぴこぴこぴこぴこぴこ〜!」
「まま〜あのいぬさん・・・」
「こら!見ちゃ駄目!」
「でも〜」
「指差すんじゃありません!」
 む、失礼な。
 この俺の芸術的なダンスが理解できんとは!
 こうなったら泣いて拝むまで踊ってやるぜい!
「ぴこぴこぴこ〜!」
「やめんかぁぁぁぁ!」
 蹴り飛ばされてしまった。
 俺はおまえの手伝いをしているというのに、何という奴だ。
 くるくるくる〜・・・しゅた!
 ふっ。
 この程度で俺の魂を沈めようとは笑止千万!
 俺はまだまだ踊れるぜぇぇぇぇ!
「ぴこぴこぴこぴこ〜♪」
「やめいっちゅーとるんじゃぁぁぁぁ!」
 うわ、また蹴りやがった!
 俺は青い空へ吸い込まれていく。
 青い、空?
 俺は・・・
 この空で・・・
 なにかを・・・しなければならなかった?
 それは確信だった。
 意識が、途切れる。
 途切れていく・・・。
 
 そして俺はすべてを思いだした。

「俺・・・こんなことしたの?」
 ぽてとがひゅるひゅると落ちていく。
 俺はそれを見ながら、呟いた。
 思い出した。
 思い出していた。
 ぽてとであった時の自分の所行を。
 そして、納得した。
「俺だったから、あんな妙なことをしたのか?」
 情けなくて、泣けてきた。
 そして俺は空へと。
 彼女の待つ、空へと・・・
「待て!こんなんで逢えても納得いかんぞ!やり直しを要求する!」
 魂の叫び。
 それが通じたのか、上昇していた視界は、急降下。
「おおおおおお?」
 ブラックアウト。

 そして目覚めた時、俺は――
 カラスになっていた。