氷月ノ宴
冴え冴えとした月の光が、冬の街を照らしていた。
季節は丁度クリスマス。。
僕は浮かれている街の中を、煩わしさを感じながら歩いていた。
――イッソスベテコワシテシマオウカ。
そんな考えが浮かんできたことに恐怖する。
ああ。
まだ。
僕は。
囚われているのかもしれない。
絶対的な開放感。
力を行使する快感。
圧倒的な支配力に。
まだ――酔っているのかもしれない。
――ナゼヤラナインダ?
うるさい。
――デンパヲスコシナガスダケデイイノニ。
うるさい。
――カンタンナコトジャナイカ。
うるさい。
――ホラ、ヤッチマエヨ。
「うるさい!」
思わず声が出ていた。
僕の考え・・・?
違う。
これは――
電波だ。
月島さんのじゃない。
いや・・・誰のでもない、電波。
悪意のある、みんなの電波。
誰もが弱い電波を持っていて。
でも、悪意を持ったときは少しだけ強くなって。
それが集まった。
そんな感じ。
イライラ――する。
僕は。
嫌気が差して。
電波を。
放った。
キ
エ
テ
シ
マ
エ
霧散する。
何の残滓も残さず。
すると。
急に。
感じる。
今まで感じなかった、電波。
そうだ・・・
これは・・・
「瑠璃子さんの、電波だ――」
約束したわけじゃなかった。
でも、感じる。
電波に編まれたメッセージはただ一つ。
『待っているよ』
僕は走った。
あの日。
瑠璃子さんが僕に振り向いて、微笑った場所に。
そう――
学校の、屋上に。
屋上。
屋上に通じる、鉄の扉を開く。
すると、火照った体を冷ます様な風が吹いた。
と同時に、声。
「やっぱり、来てくれたね」
彼女は月の光の中。
そう言って振り向いて――
「長瀬ちゃん・・・」
笑った。
「電波、届いたから」
そう言って、僕も笑った。
彼女はおかしそうに。
本当に、楽しそうに。
「ふぅん・・・どんな、電波?」
僕に問う。
僕は少し戸惑って、答える。
「うーん、なんて言えばいいんだろうか・・・」
そう。
「感じただけで、瑠璃子さんだって判る――電波、かな?」
瑠璃子さんの電波は――
「綺麗で。冷たくて。でも本当は暖かい――」
そんな。
「電波」
そう言うと、瑠璃子さんは。
「私もね・・・」
僕に笑いかけて。
「長瀬ちゃんの電波なら、すぐ判るよ」
こう言った。
「触れる物全てを傷つけそうなほど強いくせに、優しい電波」
そして。
「私はね、長瀬ちゃん」
言葉を、続けるのだけれども。
「長瀬ちゃんのそんな電波、好きだよ」
(僕の電波が、か・・・)
嬉しいけど、哀しかった。
結局、勝てないのかな。
痛みが、よぎる。
それでも。
僕は。
瑠璃子さんのことが――
好きなんだと、思う。
そう、自覚したのだけれども。
僕は電波に想いを乗せなかった。
怖かったから。
でも。
瑠璃子さんは。
「うん・・・」
と頷いて。
フェンスまで歩いて――振り返った。
「でもね」
そして。
「長瀬ちゃんのことは――」
僕に。
「もっと、好きだよ」
微笑いかけた。
狡いな、と思う。
あんなに怖がっていたのを見透かす様に。
まるで僕が拒絶するはずがないと判っていた様に。
あっさりと、瑠璃子さんは言ってしまった。
そう。
ならば、僕も瑠璃子さんに応えなきゃいけない。
電波に頼らない、僕自身の声で。
僕は、彼女に想いを告げる。