誰もが持っている、心のちから。

 それは小さな、本当に小さなものだけれど。

 でも、集まれば大きな力になる。

 それが僕のちから。

 君のためのちから。

 このちからの全ては−君のために。



奇跡、ひとしずく 



 雪が降っていた。

 ずっと降っていた。

 君が泣いていた。

 ずっと泣いていた。

 僕はその事を感じていた。

 僕の目には何も映らないけど。

 僕の耳には何も響かないけど。

 でも、君が泣き続けていることは解った。

 解っていたけど、僕には何もできなかった。

 僕は君の側にいなかったから。

 でも、あの頃の僕が君の側にいても、きっと何もできなかった。

 あの頃の僕には何の力もなかったから。


 僕は色々な願いを感じてきた。

 自分勝手な願い。必死な願い。暖かい願い。

 叶った願いもある。叶わなかった願いもある。

 でも、みんな願いを叶えるための力を持っていた。

 願いが叶った人は微笑った。

 願いが叶わなかった人は涙を流した。

 願いが叶った人は神に感謝した。

 願いが叶わなかった人は神を望んだ。

 そう、そんな人たちの心から零れた、ほんの小さな奇跡のしずく。

 それが集まり、僕は力を得た。

 願いを叶えるための力を。

 でも、その力があっても僕は使えなかった。

 僕の力は君のためだけのものだったから。

 そして時は過ぎ、『彼』はこの街に戻ってきた。

 僕がこの世界に生まれるきっかけを作った人。

 僕に意味を与えてくれた人。

『彼』はあの頃のままで、でも、大切な物を失っていた。

 あのころの記憶。

 君と過ごした記憶。

 すべてを、彼は失っていた。

 でも、それは無理もないことだと思う。

 だって、あのころの記憶は『彼』にとって辛すぎる物だったから。

『彼』の心を壊してしまうほどに。

 でも、『彼』は戻ってきた。

 そう、戻ってきてくれた。


『彼』が戻ってきたからだろうか。

 僕は君の『影』を感じるようになった。

 大切ななにかを探している君を。

『彼』が呼んだのか、それとも僕の願いの欠片なのか、解らないけど。

 君は『彼』と再会した。

 そう、君の居るべき世界に帰るために。

 君が、幸せになるために。

 僕はそう信じた。


 君は僕を捜し続けている。

 でも、僕は君に見つけられるわけにはいかなかった。

 君が僕を見つけたとき、何を願うか解っていたから。

 だから僕は君より先に『彼』に見つけられることを願った。

『彼』ならば何とかしてくれる。

 この哀しい状況を何とかしてくれる。

 だって、僕がいるのは『彼』がいたからだから。

 だから何とかしてくれる。

 僕にはまだ、願うだけしかできないけど。

 でも−だからこそ、僕は願った。

 君を、ここに呼び戻すために。

 君にいるべき世界に連れ戻してくれる『彼』を。

 早く見つけて−僕を。


 そして『彼』は僕を見つけてくれた。

 失った翼を取り戻してくれた。

 そう、僕は翼を取り戻した。

 君の願いを叶えるための翼を。

 僕は君の願いを叶えるために生まれたのだから。


 君は最後の願いを言った。

 でも、僕はその願いを叶えるわけにはいかない。

 僕は君の幸せのための願いしか聞けない。

 君は『彼』が幸せでいることを願っている。

 それは解っているけど、その願いを聞くわけには行かない。

 だって、『彼』も君のことが好きだから。

『彼』の幸せはきっと君がいなくちゃいけない。

 だから、「ボクを忘れて」なんてお願いは叶えられない。

 それにほら、耳を澄ましてみて。

 君が関わった全ての人が君が微笑っていることを願っている。

 ほら、誰もが君を呼んでいる。

 僕はもう、君の側にいることは出来ないけれど。

 でも、僕がいたという証を残そう。

 最後に君と、君の大切な人の願いを叶えよう。

 僕の願いは、君が幸せでいることだから。

 君がいつまでも微笑っていられることだから。

 7年分の奇跡のしずく。

 しずくは集まり、やがて河となり流れはじめ−そして大きな海に変わった。

 その全てで君の願いを叶えよう。

 君のための−君のためだけの、3つの願い。その最後の願いを。

 だって僕は君の願いを叶えるために存在しているのだから。

 さあ、君の本当の願いは何?


「ボクの、本当のお願いは・・・」



−やでやで。
「Kanon、ですよね」
−異常に疲れたぞ。あ、ちなみのこの僕、っていうのは天使の人形ですので。
「本当はこれ、来須さんの誕生日のお祝い用なんですよね」
−で、うちに新作がないので無理言ってアップロードしちゃった。あはははは。
「来須さん、多謝!」