遠野秋葉さんの平凡な一日 −日向ぼっこ変−





うぅ、まさか、食事中まで琥珀にからかわれ、翡翠に冷たい目で見られるなんて……。
あんな辛い食事は暫く遠慮させてもらいたいです……。
そういえば、何かの本に書いてあった。
こんな日は日向でゆっくりするに限ると。
うん、そうしよう。

まだニヤついている琥珀にアイスティーを入れてもらって。
バスケットにお気に入りのお茶菓子を少々。
それに瀬尾が貸してくれたお薦めの小説をもって準備完了。

あ、みんな居間に集まってる。
一応、声をかけておこう。
「じゃ、中庭にいるから何かあったら呼んでね。」
そのまま行こうとすると後ろから琥珀に呼び止められた。
「秋葉様?お菓子ばっかり食べてると太りますよ〜。」
ぐっ、大きなお世話よ、全く。
そういえば、最近羽ピンのおかげでお菓子の消費量が増えた気が……。
…あとで運動始めようかな?
でもくやしいから一応は反撃しとこう。
「ねっころがってゲームやりながらお菓子食べるほどではないと思うけど?」
たいした嫌味にならないかと思ったら何故かその場の空気が固まったようだ。
「姉さん、あれほどゲームなどには手を出さないでってお願いしたのに…。」
「あ、あれは違うよ、翡翠ちゃん。あれはね、志貴さんがどうしてもやりたいというから…。」
「あ、ずるいよ琥珀さん。あれ全部琥珀さんの趣味で…。」
なんか、修羅場になったみたい。
今のうちに逃げよう。
「あ、秋葉様。逃げないで何とかしてくださいよ。私の唯一の娯楽を〜。」
「とにかく、ゲームは禁止です。さぁ、出し……」
「いや〜没収はいや〜。せめて時間…………」
「あ、あの翡翠?何もそこまで………」
う〜ん悪いことをしたような……。
今度、翡翠に話して一日15分だけは許可するよう言ってあげるか。
そうしないと後が怖いし……。

中庭に来ると先客がいた。
椅子の上に黒い球体が気持ちよさそうにしている。
兄さんの飼っている猫だ。
たしか、レンって言ったっけ?
使い魔で人間の姿も取れると聞いているが私は見たことがない。
普段、避けられているみたいだから今日はちょっと仲良くなりたいな。

よし、ちょっと頑張ってみよう。
黙って向かい側の椅子に座る。
レンはちょっとこちらを気にしたけどそのまま丸まっている。
近くに行こうとすると耳が動いた。
こちらを警戒しているのがよく分かる。
うぅ、どうしたらいいのだろう。
自慢ではないがまともに猫と接したことなど生まれてこの方一度もないのだ。
……仕方がない。今度兄さんと一緒のときにコツを教わろう。
といっても、あの人は何にでも好かれるからどうせこういうのだろう。
「大丈夫。気持ちだよ、秋葉。」
なんて、微笑みながら。
まぁ、逃げないようだし今日はこのまま一緒に日向ぼっことしましょう。
はぁ、なんか気持ちいいなぁ。
だんだん眠気が…。
………………
……………
…………
………
……


夢を見ていた。
子供の兄さんと私と琥珀と翡翠が遊んでいる。
でも、どこか違う。
周りを見渡すと大人の兄さんと私と琥珀と翡翠。
つまり、どういうことだろう?
あれは私達の子供ってこと?
どこかから声がする。
「これは貴方の希望。貴方の夢。」
誰だろう?聞いた事のない声だ。
「この場に私は居ない。だからいつも私は貴方を避けている。」
避けられているですって?
私にはそんな心当たりはないのだが。
「この家で私だけが貴方の目に入っていない。それが悲しい。」
…?
この家の住人?
兄さん、私、琥珀、翡翠。後は……。
あ、まさか。
貴方がレン?
「そう。私入れてもらえない。だからお願いしに来た。」
ふ〜ん。これは私の希望なわけね?
じゃ、こんなこと考えたらどうなるだろう?
私は考える。
すると
そこに黒猫の家族が加わった。
子猫たちは子供達とじゃれあい、母猫は私の腕の中にいる。
「あっ」
嬉しそうな声が響き、目の前が薄れていく。
………………
……………
…………
………
……


目が覚めると向かいの椅子には黒い服を着た女の子が座っていた。
「レン?」
そう問いかけると、ちょっとおどおどした感じでうなずいた。
「貴方を忘れていてごめんなさいね。」
「ちょっと幸せに浸かり過ぎて周りが見えなくなっていたみたい。」
そう謝るとレンはにっこりと笑った。
うぅ、なんか凄く可愛い。
これは兄さんには勿体無いなぁ。
「ねぇ、レン?私の使い魔にならない?」
一応、聞いてみる。
ふるふると首を振られてしまった。
仕方ない。諦めましょう。
でも、一つだけ約束させないと。
「じゃ、レン。ちょっとお願いがあるのだけれどいいかしら?」
「さっきの夢だけど…兄さんには絶対内緒にして。」
レンはちょっと小首をかしげる。
「何でも言うこと聞いてあげるから。ね、お願い。」
とにかくお願いしておこう。
これだけは知られたくない。
うぅ、こんな夢知られたら恥ずかしくて……。
レンはちょっと考えてからこういった。
「ケーキ食べたい。」
えぇ、いいでしょう。
美味しい店に連れて行ってホールでご馳走してあげます。
このくらいですめば安いものです。
とにかく、家族が仲良くなるためなのだから。
ケーキくらい店ごと買い占めたっていいくらいです。

そして私達は握手をして日向ぼっこに戻った。
私はまた眠りに落ちてしまったが、今回は夢を見なかった。
ただ、起きたときにさっきよりも幸せな気分になることが出来た。
レンが猫の状態で私の膝の上にいたのだ。
そして、幸せそうに寝ているではないか。
ちょっと背中をなでてみる。
あ、なんか幸せそうな表情。
嬉しい。仲良くなれた。
私はそのまま背中をなで続けた。
兄さんがお昼だと呼びに来るまでずっと。
これからもよろしくね、レン。

それ以来、私のお小遣いの中にレンのケーキ代が大きな割合を占め
お小遣いを圧迫するのだが






それは





また





別の話。





遠野秋葉さんの平凡な一日の4話。もはや連載・・・
あはははははは、レンとのほのぼのですね。ぐっど。
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