遠野秋葉さんの平凡な一日 −琥珀変−





はぁ、気が重い……。
あの時間に翡翠に見られたということは……。
今頃はもう琥珀が知っているということよね。
朝から色々言われなきゃいけないのか…。
あの癖だけは止めてくれないかなぁ。
まぁ、なんというか、琥珀自体は好きなんだけど…。
からかわれると冷静でいられないし

はぁ……。



食堂に行くと琥珀が朝食の準備をしていた。
さぁ冷静に冷静に……。
「おはよう、琥珀。」
うん、いつもどおりの私だ。
大丈夫。付け入る隙さえなければ何も言われない。……はずだ。
「もう少しかかりますからお茶でも飲んでお待ちくださいね。」
いつもの事ながら琥珀の手際の良さと予測能力には感心する。
きちんと飲み頃のお茶が出てきて、その上、飲み終えたタイミングで料理が出される。
私もせめて料理だけでも出来ればいいのだけれど。
そうしたらもう少し兄さんにも恋人らしいことが出来るのかな?
この朝の状況を見るといつもそう思う。
今度、琥珀に頼んで料理教えてもらおうかしら?

「ところで、秋葉さま?」
さぁ、きたかな?
「何かしら?琥珀」
「今日はどちらかへお出かけのご予定はございますか?」
あ、ただの予定の確認かな?今日は何もなさそうだ。
「いいえ。今日は家でゆっくりしようかと思ってたところだけれどなにかあったかしら?。」
このところいろいろあったから今日はのんびりしたいなんて考えていた。
もしかしたら何か忘れていたのかしら?
まぁ、こういうときは琥珀のほうから教えてくれるだろうし
「いえいえ、志貴さんとお出かけかなぁ?なんて考えていたものですから」
ぶっ、ちょっと気をそらした隙に……。
まぁ、そうしたいのは事実だけれど。
そりゃ、兄さんはお金とか持ってないから誘いにくいのも分かるけど。
たまにはちょっとした散歩でもいいから誘って欲しいです。
そろそろアルバイトとか認めてあげてもいい気がしてきた。
そうしたら誘ってくれるだろうし…。
「秋葉さま、幸せそうですね〜。」
あ、なんか笑ってる。ちょっと悔しいなぁ。
「何か可笑しいかしら?」
ちょっと不機嫌だと主張してみよう。
あれ?ちょっと待って。
琥珀が泣いてる……。
なんで泣いてるの?
「ちょっと琥珀?どうしたの?いきなり…」
いつもこれくらいなら笑いながら反撃してきてこっちが何も言えなくなるのに。
「秋葉様幸せそうだなって思ったら何故か急に嬉しくなってしまって。」
「あはは、変ですよね?って秋葉様までどうしたんです?」
え、私、泣いてるの?
目元に手を当てると確かに濡れている。
「はは、琥珀のが伝染ったみたい。」
笑いながら泣いていた。嬉しいのだ。
そう。確かに私は嬉しいのだ。

琥珀はいつも笑っている。
でも、それは仮面なのだ。その下にある感情を隠すための。
私はそれを取り去りたかった。
琥珀が仮面を被る原因を作ったのは他でもない私の父なのだから。
でも、今までの私ではどうすることも出来なかった。
私も同じように仮面を被っていたのだから。
”遠野家当主遠野秋葉”という仮面を。
でも、その仮面は兄さんが剥がしてくれた。
その下にある”遠野志貴を好きな遠野秋葉”という実際の私を出してもいいと教えてくれた。
そう、私は変わった。
その影響が琥珀にも伝わったということなのだろうか?
そうだと嬉しいな。

「あ、でも、秋葉様?」
二人で泣いた後、唐突に琥珀が言った。
「私達のいる前であまり志貴さんとイチャイチャしないでくださいね。目の毒ですから♪」
仮面を被っていても外していてもやっぱり琥珀は琥珀だということか……。
ということは、これからもずっとからかわれ続けなくちゃいけないの〜?
「あ、それと、もう”兄さん”って呼ばないほうがいいと思いますよ?」
「な、なんで?兄さんは兄さんじゃない。だから兄さんって呼ぶわけだし。」
あ、混乱してきたみたい。言ってることが支離滅裂になりかけてる。
「だって、もう恋人で婚約者なんですから将来の呼び方も考えないと♪」
「こ、琥珀〜!あんた面白がってるでしょ〜!」
「あ、いけない。朝ご飯が冷めちゃいました。もうちょっと待っててくださいね〜。」
「ちょっと。もう…琥珀ったら」

でも、確かにそうだ。
そろそろ呼び方も考えなくてはいけないかもしれない。
「う〜ん。やっぱり志貴って呼べば喜んでくれるかしら?」
「確かにそのほうが嬉しいよ、秋葉。」
いきなり後ろから声がした。
「へっ?兄さん…なんでここに?」
「朝食べに来た。それだけだけど?」
もしかして…。
台所の入り口を見ると琥珀がこちらを見ながら笑っていた。
あぁ、誰か琥珀の性格をもっと丸くしてください。「




遠野秋葉さんの平凡な一日の大三弾。
・・・早いです、書くの。