それはあるいは幸福な災難





なんでこんなことになったのだろう?
今までで一番簡単な仕事だと聞かされていた。
事実、ここに到るまではあっけないほど簡単にことが進んだ。
今思うと、その段階で疑問に思うべきだったのだろう。

それが




出来なかったから









俺は




死にかけているのだ……。



数日前・海鳴市翠屋
朝一本の電話があった。
それを受けてからというものフィアッセの機嫌は最高。
いつもの三倍は機嫌がいいと思えるくらいだ。
電話の内容が気になった俺はちょっと質問してみた。
「電話、なんだった?なんか良い事だったのか?」
「今度、取材が来るからね♪」
「取材?また翠屋が雑誌に載るのか?」
最近また情報誌に取り上げられたこともあり、取材依頼が増えたと聞いている。
「違うよ〜♪」
違うらしい。
「取材が来る」と聞いて思いつくものはこれか、もしくはフィアッセしかないのだが
なんとなく反応が気になって考えていたら
「それはね〜恭也のだよ♪」
なんて言ってくれた。
…は?
「俺の取材?なんで?全く意図が見えんのだが」
大体、取材対象になるような人間とは思えない。
終始無愛想だし、一流大学の天才というわけでもない。
わからん……。
「何故、俺なんだ?」
どう考えても分からないので聞いてみると
「それはね〜恭也が私の恋人だからだよ〜♪」
なんですと?
まぁ、確かに婚約もしているし、そういうことになるのだが……。
「それって理由になるのか?」
「なんか、そういう企画らしいよ?有名人の恋人紹介だって」
「しかし、断れないのか?俺はそういうのちょっと……。」
「駄目かな?簡単な質問と写真撮影だけみたいだから。」
フィアッセはちょっと上目遣いに聞いてきた。
「だって、私だって自慢したいよ?皆雑誌とかで言ってるし……。」
日本の芸能界にも結構友達が出来て何よりなのですが、そういうところは真似しないで欲しかったりするのだが。
しかし、フィアッセのそういう態度に勝てるはずもなく
「大丈夫よ。剣の練習なんかよりよっぽど簡単だから。」
母のそんな言葉にも後押しされ
「恭ちゃんも、たまには恋人孝行するもんだよ!」
「はやや〜。取材なんてお兄ちゃんカッコいい!」
妹達の止めの言葉もあって
「わかった。」
俺はこう答えていた。


詳しい内容も聞かずに……。



後で聞かなかった事を後悔するとも知らずに

そして、取材当日
「はい。質問は以上です。では写真撮影に移りますので。」
質問をこなし、後は撮影だけとなったようだ。
確かに簡単な質問だけだった。
お互いの呼び方やプロフィール的なことだけだし。
考えていたよりも楽な仕事だった。
残りも早く終わらせてさっさと寝るとしよう。
そう思っていた俺はカメラマンの言葉を聞いた瞬間に凍りつくことになった。
「じゃ、手をつないでもらえますか?」
……はい?
手をつなぐ?
「え〜と、それはどういったことでしょうか?」
その質問に責任者は気楽に答えてくれた。
「恋人であることをアピールする写真が欲しいんですよ〜。」
「フィアッセさんの特集ということで写真も多く乗せたいですし。インパクトもね。」
「最低でも20パターン、1パターン20枚くらいは。」
20×20ということは400枚?
最低でもって事は…考えるのはやめよう。
ただ言われたとおりにすればいいと割り切らねば……。

……
………
…………
……………
〜〜〜一時間経過〜〜〜
「じゃ、次は二人で同じグラスからジュースを飲んでください。」
「恭也さん、もっとやわらかく。」
「もう一枚いきますよ〜。」
「今度は見つめあってください。」
いかん、口の中がやたら甘ったるい……。

……
………
…………
……………
〜〜〜二時間経過〜〜〜
「フィアッセさん、恭也さんにケーキを食べさせて。あ〜んとか言いながら。」
「ほら二人とも照れない。いつもやってるんでしょ、これくらい。」
いや全くしていませんが……。
そんなこんなで苦手な甘いものを食べ続けることに。
誰でもいいから助けてくれ。

……
………
…………
……………
〜〜〜X時間経過〜〜〜
「は〜い。じゃこれを最後にしましょう。」
やっと終わるのか。
長かった。
なんか、口中感覚が麻痺するほど甘いものを食った気がするぞ……。
「では、最後にほっぺにキスを。」
む、それはちと恥ずかしいが立っているだけでいいのなら我慢しよう。
「では恭也さんからおねがいしますね。」
は?俺から?

……
いかん、立ちくらみが。
助けを求めて隣のフィアッセを見ると、満更でもない表情をしている。
こんなものを知り合いに見られたらどうなるか想像に難くない。
あ、本当に意識が遠のいてきた。
やばい、このままでは、気絶、す、る。
遠のいていく意識と近づいてくる床がその日の最後の記憶だった。







雑誌発売数日後 翠屋

「え〜なんか、全然イメージ違う〜」
「本物のほうが断然格好いいよ〜」
「やっぱり恋人の前じゃないと駄目なのかなぁ」
「高町せんぱ〜い」
今日も今日とて黄色い声を聞きながら翠屋のアルバイト……。
フィアッセはこの結果は予測していなかったようでさすがに嬉しそうでいて怒っているような微妙な表情。

あの後どうなったかというと、俺がキスをしたらしい。
倒れてすぐに起き上がりキスをしてまた倒れたとのこと(フィアッセ談)

最悪なことにその写真は見開きで使われることとなり、その号は増版がかかるほどの売れ行きとなった。

おかげで雑誌発売以来この状況が続いているというわけだ。
しかし、このままだと仕事にならない…。
誰か何とかしてくれ〜。





まだ題名もついていませんが第二段です。
これで勘弁してくだちぃ(泣)





takaさんからのSS第二弾です。
・・・しかし、1本目頂いた翌日ですか。
早い・・・
某も負くることではないぞ・・・