そのろく。





 教会からの帰り道。
 不意に感じたのは視線。
「――シロウ!」
 頭の上に乗っかっていたセイバーが鋭い声を放つ。
「ああ。いる――魔術師だ」
 俺の呟きに応えるように、肌寒い空気を切り裂き、声が響く。
「はじめまして、衛宮士郎。
 わたしはアインツベルン。イリヤスフィール=フォン=アインツベルン」
 その声を放ったのは、幼いとさえ言える少女。
 でも、解る。
 危険な存在であると。
「衛宮士郎。あなたはキリツグを――
 わたしの父親を奪った。だから……」
 だが、その言葉が俺の思考を奪った。
 チチオヤ?ダレガ?キリツグガ?ダレノ?
 メノマエデエム、マジュツシノ――!?
「待て!じゃぁ、君は親父の…!」
 俺の問いには答えず。
「恨む権利くらい、あるよね?」
 にっこりと笑う。
 その笑みを睨み付け、セイバーが言う。
「シロウ、ここは私に任せてください!」
 と、剣をかざして。
「…や、無理だから。言っちゃなんだけど絶対無理だから!」
「む。私を侮るのですか!」
「あほたれっ!現実を見据えろっ!」
 そんな目の前で繰り広げられるおまぬけ劇場に動揺せず、彼女は、にこやかに――
「やっちゃえ。バーサーカー」
 告げた。
 現出したのは咆吼を身に纏う狂戦士。
「■■■■■――!」
 それを振りかざし、駆け抜けて――
「バーサーカー!
 くっ、なんてことを!」
 セイバーの悲鳴など無視して――叩き付ける。
 叩き付けられたのは、俺であると理解した瞬間――
 脳髄を、灼熱感が駆け上った。
「痛ぇぇぇぇぇ!何なんだよ一体!」
 我に返った俺の足下には鉛色の肌の男。
 そいつがソレを振り回して――否、振り回されている。
 そりゃそうだよなぁ、ソレ大きいものなぁ。なんせあんたの2倍ほどの大きさだ。
 なんだか必死の形相で俺に叩き付けようとしているが、掠りもしない。
 初撃こそ俺が呆然としていたこともあって弁慶の向こう臑直撃コースだったけど。
 ――溜息。
「なぁ、イリヤスフィールさん、でいいのかな?」
「イリヤでいいわ。何?」
 なんか諦めムードな俺と対照的に、イリヤは平然としたものだ。
 ――む?
 不意に感じた微かな痛みに見下ろせば、ソレをぶち当てた反動でバーサーカーがひっくり返ってた。
 あ、目を回してる。
 ――はぁ。
 今までバーサーカーの獲物となっていたソレを手に取り、イリヤに訊く。
「何で新巻鮭?」
「んー。何となく?」
 その返答に、俺は目眩を感じつつも在りし日を思い出す。
『魔術師たる者、何時如何なる場所如何なる場合でも戦えるように、ありとあらゆるモノを武器として扱えなきゃいけないんだよ」
 などと言いつつ新巻鮭を振り回してチンピラをしばき倒してたっけ。
 思わず空を見上げれば、すっごいイイ笑顔でサムアップする親父が浮かんだ。
 ああ、親父。この子、確かにあんたの子供だ。
 ――なんだかんだでイリヤが家に住み着くことになりました。