そのはち。





「懐くな赤くなるな息を荒げるなぁっ!」
「アアン♪」
 学校の屋上。
 遠坂に思いきりぶん殴られ、甘い声を上げつつ慎二が吹っ飛んでいく。
 遙かな空を見上げて思う。
 この光景に慣れた俺って、汚れてしまってるんだろうか?
 浮かぶのはイイ笑顔でサムアップをしている親父。
 ……諦観と共に顔を慎二に向けると、どうやら意識を失っているらしい。でも嬉しそうだな、おい。
 慎二がいた辺りを何となく見てみると、何かが落ちている。
 何の気なしにそれを拾い上げれば、それはとても小さな――
「ん?本か」
 その途端。
 ライダーがとててててー、と俺の左肩に駆け上がり、ちょこんと座って微笑んだ。
「…ライダー」
 と、頭に陣取っているセイバーが、やや険のある声で言う。
「なんですかセイバー」
「何故貴女がシロウの肩にいるのですか」
「私のマスターさんになったからです」
 きっぱりあっさり答えるライダー。
「……む」
「……」
 今にも取っ組み合いを始めそうな二人を見やり、俺の右肩にいたキャスターはぽつりと訊いた。
「ライダー。貴女を士郎のサーヴァントとして縛っているのは令呪ではなく、士郎が先ほど拾った本ね?」
 返答はない。
 だが、ライダーは怯えたように動きを止めた。
 それこそが、返答。
 セイバーはここぞとばかりに言った。
「!シロウ、その本を捨てるのです!」
 それに対してライダーは懇願。
「士郎、捨てちゃイヤです」
 なんか迷子みたいだなぁ。
 捨てたら困るんだろうなぁ。
 慎二に返しても良いんだけど……慎二は何というか、あんなだしなぁ。
 そんな俺の葛藤に気付いたのか、セイバーがキャスターに要請した。
「キャスター、貴女からもシロウに言ってください!」
 でもキャスターの返答は、少し意外なもので。
「あたしは別にどっちでもいいんだけど?
 でも士郎はこういうの見捨てられないんでしょ?
 ならやりたいようにするのが一番だと思うわ」
 にっこりと、笑う。
「そっか。キャスターはいい子だな」
 指先で頭を撫でれば、キャスターは子猫の様に目を細めた。
「む!」
「あ」
 それを見て、しまった、といった表情のセイバーと、羨ましそうな表情のライダー。
 どうかしたのかな?と思いつつ、キャスターを見れば――
 笑顔。
 だけどその笑顔に何か黒いものを感じてしまったのは、俺の気のせいだと思いたい。
「うふふふふふふふふふふふふふふふ」
 そう、思いたい。