そのじゅうさん。
サーヴァント達は瓶詰サイズだから、食事の量もそれ相応だ。
だけど、セイバーだけは食べる量は俺達の半分程度ってどういうことさ。
……どこに入っているんだろう?四次元なのだろうか。
などと凄い勢いで消えていく食事を見ながら考えていたら、それは起こった。
「む。タイガ、それは私の豚の角煮です!」
藤姉がセイバーの皿から角煮を分捕って、
「残してるから要らないかと思ってたよー」
言うが早いか、口に放り込み、
「んー、美味しい!」
笑う。
その刹那、セイバーの顔がぐしゅりと崩れた。
「シロウ、タイガが、タイガがー!」
藤姉を指差し、えぐえぐと泣きながらセイバー。
「はぁ……」
セイバーの頭を撫でつつ、藤姉に宣言。
「藤姉、子供みたいな事すんなよ!
罰として当分お代わり禁止!」
「なんですとー!」
藤姉がすっげぇ表情になってるけど放置。
まだえぐえぐ泣いているセイバーの皿に角煮を分けてやる。
「ほら、セイバーもいつまでも泣いてないで。
俺のやるから」
途端に笑顔が戻る。まだ泣き笑いだけど。
「ひっく、シロウ、ありが…ひっく」
……ああ、よっぽど悲しかったんだなぁ。
そのセイバーの様に同情したのか、
「セイバー。私のもあげます」
「仕方ないわね。私もあげるわ」
……正直、セイバーにとっては雀の涙ほどの量だ。それでも、ライダーとキャスターの心遣いが嬉しかったのだろう、セイバーは何とか笑顔を作って礼を言った。
「ひっく、ライダー、キャスター、ありがとうございます」
「ライダーもキャスターもいい子だな」
ライダーとキャスターの頭を撫でてやっていると、桜と視線があった。
ん?元は自分のサーヴァントだったんだし、ライダーが気になるのかな?
桜の手招きで、ライダーが桜の側に行き、なんだか事務的に言った。
「何ですかサクラ」
「……ライダー。そろそろ家に戻ってこない?」
「ヤです」
即答。
「何ですって?」
ゆら、と桜が黒く染まっていく。ああ、黒桜だ。これ見るのは何度目だろ?なんだかすっごい危険な雰囲気だけど、ライダーは物怖じせずに言い切った。
「脅されようとヤなものはヤです」
「むー!」
「むむー!」
あ、睨み合いだした……
「えーと、桜?」
少し不安そうに俺を見るライダー。うーん、やっとセイバー達とも仲良くなってきたからなぁ。桜には悪いけど、俺のサーヴァントでいて貰おう、うん。
「俺は迷惑してないし、ライダーにはセイバー達のためにも、もうちょっと居て貰いたいんだけど……ダメか?」
「……先輩がそう言うなら仕方ないですね」
あ、なんか少し正気に戻ったみたいだ。良かっ
「でもお邪魔だったらいつでも言ってくださいね。
適切な処理を行いますから」
うわまだ黒いし!ってかなんだよその適切な処理ってのは!?
その答は…桜の視線を伸ばした先にあった。
アンリ・マユ。ぱっと見、ゆらゆら揺れる影。その正体は新しい桜のサーヴァント。
慎二の話によると、何でも食べて、その存在を黒化させちゃう悪い子らしい。
桜もこいつのせいで黒化したのか、と訊いたらありゃ元からだと笑ってたっけ。
……直後、何かに引きずられていったのが印象深いけど、はてさて。
その悪い子な筈のアンリ・マユ。
そいつが、豚の角煮を物欲しそうに見ている――ように見える。
「ん?どうしたんだ?お前も欲しいのか?」
訊けば、こくこくと凄い勢いで頷いたのが可笑しくて、
「ほら。熱いから気を付けるんだぞ?」
取り分けてやる。
アンリ・マユは嬉しそうに頭を下げ、そして意外なことに箸を器用に操って角煮を食べ始めた。
はむはむこくこく。
はむはむはむはむこくこくこくこく。
「あ、アンリ・マユまで餌付けされた……」