そのじゅうご。





「士郎士郎、これ何?」
 カプセルを手に、シロウに訊いてみる。
「ああ、ガチャポンだな。何が入っているのかは見てないけど。開けてみるか?」
「うん!」
 急いでセイバー達の待つ居間に帰る。開けるときは一緒に、って約束してたから。
 みんなが見守る中、カプセルを開ける。
 中に入っていたのは、丸っこい天馬の人形。なんか可愛いな、と思いつつ、私は一緒に入っていた説明書の文章を読み上げた。 
「……ぺがさすちゃんは飼い主の敵、ペルセウスを捜して果てしない旅を続ける羽付き馬です。みなさん、ぺがさすちゃんの力になってあげてください」
 暫しの沈黙。
「感動しました!主君の敵をとろうとは、馬とは言えども騎士道の鑑!助けねばなりません!」
 鎧を着装し、本気モードのセイバーと、
「私の敵を……」
 感極まった、といった風情のライダー。
「……いい話じゃない」
無関心そうな振りしていながら、少し鼻声のキャスター。
 ライダーは軽く頷いて、私たちに頭を下げた。
「セイバー、キャスター、イリヤ。
 ぺがさすちゃんの力になりたいのですが――力を、貸してくれますか?」
 ライダーのお願い、聞いてあげるわ。こんなライダー初めてだし、ね。
 結局誰も快諾、ライダーはほっとして。
「では、お願いします」
 にっこりと笑った。

 みんなで協力して出来る方法、となると――うん、この手で行こうってええっ!?
 私が見たのは、セイバーが剣を振りかざし、ライダーが自分ののど元にダガーを突きつけ、キャスターがぺがさすちゃんを中心に据えた魔術を展開しているという光景。
「ちょ、ちょっと待ちなさーい!」
 慌てて止める。
「セイバー、ぺがさすちゃんを焼きおにぎりにするつもり!?
 ライダー、そんな身体で呼べるのはせいぜいケットシー程度だから止めなさい!
 それとキャスター!今のあなたがそんな魔術を使ったら、一つ間違えたら消えることになるよ!」
 早口で指摘して、なんとか最悪の事態を避ける。
 危なかったー。あと数秒遅かったらこの子達が消えて、士郎を悲しませるところだった。
 でも、気持ちも分かるんだよね。なんとかしたい、って。
 だから、私は提案する。
「だから、ね?ここはみんなで協力しよう?
 わたしが魔力を供給、キャスターが魔術の制御。セイバーの剣をアンプにして、ライダーが幻獣の精神体を召喚、で、みんなで人形に定着させたらいいんじゃないかな?」
 すると、みんなの沈んだ表情が明るくなって――ああ、良かったな、なんて思って。
 自覚する。誰も、もちろんわたしも、シロウに影響を受けていることを。
 そして、この世界――もしもこの聖杯戦争がまともなものだったら、きっと見ることの出来なかった光景。そして、感じることの出来なかった安らぎのある世界を、愛しいと感じている。
 そう、わたし達は気付いている。
 この世界は、本来ならあり得ない世界だ。
 騙し合い、貶め合い、殺し合うのが本来の聖杯戦争だ。
 しかし、今、わたし達がいるのは――
 認め合い、庇い合い、笑い合う、そんな『狂った』聖杯戦争。
 でも、わたし達はこんな世界を心地よいと、愛しいと、守りたいと感じている。
 狂っていてもいい。この世界を知ってしまった以上、もう『正常な』聖杯戦争なんか欲しくない。
 聖杯戦争のために生み出されたこのわたしでさえ、そう願ってしまった。
 確かに、いつまでもこのままじゃいられないのかもしれない。
 いつかこの世界は壊れるのかも知れない。
 でも、それまでは。せめて、それまでは。
 ――みんな笑顔でいられますように。


 庭に出て、わたしは術式を制御する結界を展開、魔力を注いだ。
 キャスターがその緻密な制御力で術式を制御する中、セイバーがかざした剣にライダーが自らの血で魔術文字を描き、幻獣の精神体を召喚。
 ――成功。漂っているその精神体がぺがさすちゃんに向かっていく。
 そして頷き合い、みんなで術式を解放。
 召喚された精神体はその存在をぺがさすちゃんの人形に縛られていき――
 閃光が、奔った。
 光が収まった後、わたしたちの視界に映ったのは、ふよふよとやる気なさそうに浮かぶぺがさすちゃん。
「やる気……」
「………なさそうですね」
 キャスターがぽかんとし、セイバーが力無く呟く。
 それでもライダーは、
「だってほら、飼い主の私が健在なんですから」
 と嬉しそうだ。
 だから私たちは顔を見合わせて、思いきり笑った。


 土蔵から帰ってきたシロウは、ぺがさすちゃんを見て驚いていた。
 でも、新しく友達になったんだよー、とわたし達が言うと、嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。