そのじゅうろく。





「衛宮、こいつ新しいうちのサーヴァントの真アサシン」
「初めまして衛宮殿。真アサシンで御座います」
 ぺこりんと頭を下げたのは、骸骨の意匠の仮面を被ったサーヴァント、やはり瓶詰サイズ。
 慎二の肩の上で正座をしているのが怪しいことこの上ない。
「慎二、魔術師はそういう事を気安く教えるものじゃなかったと思うんだが。
 また桜に折檻されるぞ?」
「衛宮、馬鹿だろ。むしろ折檻して欲しいから教えてるんじゃないか」
 ……断言しよう。馬鹿はお前の方だ。
「で、その真って何よ?」
 遠坂の質問に、よくぞ聞いてくれたと慎二は満面の笑みを浮かべた。
「真は真だよ。真ゲッターロボの真さ。
 きっと真の名に恥じぬモーフィング変形ぶりを魅せてくれるんだろうな……」
うっとりと妄想している慎二に、
「原作漫画版かよっ!」
 俺が突っ込み、
「慎二殿、モーフィング変形は無理で御座います」
 真アサシンが否定した。
「え?じゃぁ、なんで真なんだよ!」
「小次郎殿がアサシンになりますが、彼は所謂イレギュラーで御座いまして、暗殺者としての属性を持ち合わせておられません。しかるに、私は暗殺者としての属性を持っております。故に真アサシンなのです」
「なんだよ、それじゃ詐欺じゃないか!」
慎二はうっとりとした表情から一転、怒りに燃えた。
「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!!衛宮と同じで裏切ったんだ!!!」
そして真アサシンを鷲づかみ。なんだか紫色した鬼みたいな顔の人型決戦兵器を思い出す構図だ。しかし真アサシンは慌てることなく、冷静に言い放った。 
「裏切るも何も、真が付くもの全てがモーフィング変形するわけでは御座いませんよ?
 そもそも真ゲッターロボもOVA版では合体いたしますし」
 この言葉に慎二は呻いた。どうやら忘れていたらしい。
「私に出来ますのは、ごく普通の変形で御座います。これでご勘弁願えますか?」
 その言葉と同時、耳障りな音と共に真アサシンの四肢が倍近く伸びた。その形状はまるで馬。変身どころかまさしく変形。そんな真アサシンを見て、慎二はすっごいはしゃぎだした。
「し、仕方ないな。その変形に免じてお前を真の称号を持つ者と認めるよ!」
「いいのかよっ!?ってか慎二、俺、お前を裏切ったっけ?」
「だって衛宮は僕をいぢめてくれないじゃないか。これは裏切りだよ?
 その点遠坂はガッツリ蹴飛ばしてくれるんだ。僕の期待を裏切らずにね」
 言って遠坂を悩ましげに見つめ、あかいあくまはその視線に瞬時に反応、渾身の蹴りを放つ。
「そんな目でわたしを見るなぁっ!」
「アアン♪」
 甘い声と共に慎二が吹っ飛んでいく。それはもう嬉しそうに。
 でも……遠坂は気付いていないのだろうか。そう思い、自分の思考を口にする。
「あのさ遠坂、お前そーやってすぐに蹴たぐるから余計に懐くんだと思うぞ?」
 反応は劇的。遠坂はしまった、って顔で凍り付いた。
「あ」
「……気付いてなかったのか?」
「う、うるさいわね!」
あかいあくまが更に赤くなる。やれやれだ。
「そ、それよりあんたのことはなんて呼べばいいの?
 真アサシンってのもなんだし」
 誤魔化そうとしてる誤魔化そうとしてる。割と分かりやすいな。
しかし真アサシンの次の言葉で奴は鬼と化した。
「小次郎殿と区別する上でハサンとお呼び頂ければ」
「破産ですってぇっ!」
 どうやらあかいあくまの心の禁忌に触れてしまったらしい。
「そんな名前のサーヴァントは即刻ここから立ち去りなさい!げらぅとひあ!」
すっごい八つ当たりだ。でもな?
「遠坂遠坂、ここは俺の家だから」
この日以来、真アサシンも遊びに来る様になりました。