そのじゅうなな。





「あ、こら!後でやるから今は駄目だ!」
 一瞬の隙を突き、黒の子猫が小鯵をくわえて逃げていく。
 まぁ、元よりこいつ用だったので別に良いんだが、これをチャンスと受け止めた奴らがいたらしい。
 曲が何処かから流れてくる。曲名は『Tr○nbe!』。とあるシミュレーションゲームにて、自分が乗る機体を愛馬と同じ名前で呼ぶ、某謎の食通のテーマ曲だ。
 何か嫌か予感を感じつつ曲の流れる方向を見れば、そこにいたのは小次郎(仮)と真アサシン。
「友よ!今こそ駆け抜ける時で御座います!」
「応!」
 真アサシンが纏っていた黒い外套を勢いよく翻すと、
「………プフェールト・モード?」
そこにいたのは、馬みたいな形態に変形した真アサシンとそれに跨った小次郎(仮)。
「刃・殺・一・体!」
 駆ける駆ける駆ける。
 蹄の音も高らかに駆け抜けていくバカ2人。
 そして奴らは誇らしげに叫んだ。
「吠えろ、<燕返し>!地蔵の如く!」
「駆け抜けなさい、<妄想心音>!その名の如く!」
 目の前の事態に、俺たちは言葉を失っていた。
 そんな俺たちの前を、奴らは颯爽と駆けていく。
 奴らの狙いは、びっくりして小鯵を取り落とした黒猫。
 まん丸な目で、飛びかからんとする奴らを見て、固まっている。
 そんな子猫に武神と竜巻な2人は最早逃サヌと全力疾走。
「無銘刀奥義!」
 渾身の力を込め、多重次元屈折現象が放たれ――
「ニャーニャを虐めるなこのバカ共ッ!!」
 ない。
 それを成し遂げたのは言峰の投じた豆板醤の瓶。
 それはもう感動的なまでに奴らを直撃し、撃ち落としたものの、瓶は四散。
 周囲にスパイシーな香りを放っている。
「おい、言峰……」
「………すまない」
 謝りながらも言峰は、腰が抜けて動けずにいる子猫をちらちら見ている。
 どうやら触りたくて堪らないらしい。
「………あー、もういいから向こうで待ってろ。
 で、こいつが台所に来ないように捕まえておいてくれ」
「うむ!」
 言峰は子猫を愛しそうに抱きかかえ、目をキラキラさせながら居間に立ち去った。
 暫しの沈黙の後、居間から届いたのはでっかい身体の誰かさんが転がり回る音。そして
「んー、可愛いでちゅねー!」
 というシニカルな声、ただし幼児言葉。
 …………そうか、奴はそうだったのか。