そのじゅうはち。
今日のご飯は和風おろしハンバーグ。
皿を居間に運んでいる最中、なにやら偉そうな声が響いた。
「ふははははははははっ!セイバー、我は来たぞ。
お前を――我の妻に相応しいお前を迎えに我は来たぞ!」
またギルガメッシュだ。
どーせいつもの場所に居るんだろうな、と見上げたならば、予想通り梁の上で偉そうにふんぞり返っている金ピカが一匹。
「セイバー、今すぐ行ってやる。
………待っていろ」
そう言って奴は梁から降り始めた。
――柱を伝って。
1分経過。
2分経過。
「おーい、まだかー?」
「だ、黙れ雑種!すぐ行ってやるからどわっ!?」
脚が滑ったらしい。ガタガタ震えながら柱にしがみついている。
「な、なんだ雑種!何が珍しいのだ!我を勝手に見ることを許した覚えはないぞ!」
「……はぁ」
いい加減相手をするのも面倒なので、放っておいてご飯にしようと考えていたとき、それは唐突に起こった。
何かが破裂するような音、それは即ち扉を開ける音。
近づく破壊音、それは全速力で駆け寄ってくる足音。
つまりは、藤姉襲来。
そしてそれがもたらす結果は金ピカ危機一髪。
振動に耐えきれず転がり落ちたギルガメッシュが、腕だけで欄間からぶら下がっている。
なんか某ドリンク剤のコマーシャルみたいだ。
あのコマーシャルなら、こんな場面では連れが引き揚げてくれるんだけど、そんな相棒の姿はない。そんなピンチの中、ギルガメッシュは偉そうに言い放つ。
「わ、我を助ける栄誉を与えてやろう雑種!」
その声に反応したのはイリヤ。
「ん〜?なんですって?」
「我が助けろと言っているのが聞こえないのか!?」
「あんた随分偉そうね。解ってる?あんたの命はわたし次第なのよ?」
嗤って壁を軽く蹴飛ばせば、奴が自分を支えるのは右手のみとなる。
となると、態度も多少変わるわけで。
「謝る!謝るからなんとかしてくれ!」
「……誠意が見られないわね」
「全面的に我が悪かったから助けてー!?」
「どうしたの?『プリーズ(お願いします)』が抜けているわよ?」
……イリヤ。それ、どこで憶えた?藤姉か遠坂か。桜という可能性も否定できないな。
「ほら、言ってごらんなさい。簡単なことでしょう?『プリーズ(お願いします)』、よ」
ああ、あと1秒あれば『プリーズ(お願いします)』と懇願できたろう。誠心誠意、全存在を賭けて。
しかしそれは果たされなかった。
ふすまが華々しく開き、
「ごはんごはんごはんー!今日のおかずは一体何なのよぅ!?」
衝撃が空間を貫いて、ギルガメッシュは落っこちた。
そしてそれを踏み付けて、虎は食卓へと駆け寄って来る。
………………………うわー。