そのにじゅういち。





「……で、だ」
 小鉢と箸を置き、衛宮士郎は切り出した。
 まず彼の視界に映りこんだのは、衛宮士郎にとって家族とも言える者達。
 はぐはぐと鮭を食べているセイバーと鶏肉にふーふー息を吹きかけているライダー。
 白滝を恐る恐る食べるキャスターと豆腐が熱すぎたのか涙目のイリヤスフィール。
 具材のお代わりを持ってきた間桐桜と幸せそうに五目ご飯を口に運ぶ藤村大河。
 ふよふよ漂っているぺがさすちゃんと猫まんまを食べている黒と三毛のニャーニャ。
 満腹だからかお茶を飲んでいるバーサーカー。
「なんでお前ら毎日うちに飯喰いに来るんだ?」
 そして半眼で見たのは、彼にとっての闖入者。
 シメジに豆板醤をかけている私こと言峰綺礼とハマグリを食べているアンリ・マユ。
 鍋の出来に満足そうなアーチャーとネギを抱え込み周囲を威嚇する葛木宗一郎。
 皆に鍋の具を取り分けている間桐慎二と雑炊はまだかと待ちわびている間桐臓硯。
 刀でエビの身をほじっているアサシンと肉団子を喉に詰めてむせている真アサシン。
 器用に箸を操るランサーとだしの染みた白菜にご満悦なギルガメッシュ。
 鍋奉行しつつ良いところを確保している凛。
「なんでさ?」
 その問いに、私たちは異口同音に答えた。
「だってご飯は大勢で食べた方が美味しいから」
「そりゃ確かにそうだけどさ、人数が増えたら準備も大変なんだぞ。
 まぁ、食費を出してくれてるからいいけどさ」
 凛を見ながら『食費』を強調すれば、案の定不機嫌そうに言い返してくる。
「何で私を見て言うの?」
「お前以外は出してくれてんだよ。ああ、セイバー達はいいのかなんて言うなよ?」
 切り返せば、
「衛宮くん、私たち友達じゃない?」
 返ってきた答は予想の斜め上のもの。
「ああそうだよな友達だよな友達。
 でも友達ってのはタダ飯たかる奴の事じゃないぞ遠坂ー?」
「それを笑って許してくれるのが友達じゃないかしら?」
 その言葉に、衛宮士郎は覚悟を決めたようだ。うん、良く据わったいい目だ。
「投影、開始」
 同田貫を投影。その刃で、
「衛宮くん、まさかとは思うけどあなた――私と戦うつもり?中途半端な魔術師のく」
 嘲笑を浮かべる凛の言葉を――
「黙れッ!」
「な――!?」
 斬った。
「そして、聞けッ!!」
「親分だ……」
「親分……」
 うっとりした声で呟くアサシンと真アサシン。そして嬉しそうに手を叩くアンリ・マユ。
 ……自分が名前通りの存在であるならば、衛宮士郎に斬られる存在なのだろうが、そもそも今のこいつは名前通りの存在では無くなっているのではないだろうか。なにやら幸せそうだし、その上瓶詰サイズ。流石壊れた聖杯、アヴェンジャーすら変質させるか。私もその影響を受けているのだが――まあ良いだろう。楽しいし。
 私の視線の先には、2人――いや、3人の憧憬を背に、剣を発動する衛宮士郎。
「我が名は衛宮!衛宮士郎!悪を断つ剣なり!」
 その言葉をトリガーとして、魔力が注ぎ込まれていき、その剣は発動。
 そうして変じた長大なバスターソードを軽々と操り――
「ななななな何よその剣!なんで日本刀がそんなでっかくなるのよ!」
「もはや問答無用!」
 凛の抗議を斬って捨てる。
「うおおおお、親分ー!」
 アサシンが感極まって涙を流し、ランサーも興奮した。
「うっわー、すげぇなあれ!なんであんなこと出来るんだ!?」
 その問いに答えたのはアーチャーだ。
「私達の<無限の剣製>は、現在過去未来に存在し、あるいは存在しうる剣の要素を内包する。それがあの剣が奴の手にある理由だ。
 ――あれこそ衛宮式斬艦刀。私たちが辿り着いた究極の一だ」
 ほれ私も出来るんだぞスゴイだろ、とアーチャーも衛宮式斬艦刀を投影し、一振り。
 それを見たアサシンが、うっとりした声でアーチャーに言った。
「ウホッ、いい斬艦刀……」
 次のアサシンの言葉とアーチャーの返答はほぼ同時。
「く れ な い か」
「や ら な い よ」
 その言葉にアサシンは涙ぐみ、アーチャーをじっと見つめた。
「…………」
「分かったから、そんな捨てられた子犬の様な眼差しで私を見るな!ただし収納・展開機能だけの試作品だぞ」
「おお、心の友よ!」
 しかしどうやら新たな友情が結ばれたらしい。良いことだ。
 和みつつ食卓に視線を戻せば、皆一様に涙で目を潤ませていた。
「……そんな最秘奥を持ち出すほどに追い込まれていたのか」
 苦しそうに葛木が呟く。以外と人情派だな。
 だが、私は外道なので同情はしない。
 ただ黙って食費を差し出すだけだ。これこそダンディズム。
「ふん、王たる我はともかく、言峰でさえまともに食費を出しているというのに」
 ギルガメッシュがあからさまに非難して、
「へぇ、魔術師の掟は等価交換とか言っておきながら自分が守ってないのか。
 この地の管理者とはいえ、遠坂家も大したことないね」
 何かを期待して間桐慎二が言うも、凛はこめかみに青筋を浮かべながらも無視。にっこり衛宮士郎に笑いかけ、
「……仕方ないわね。それじゃ衛宮くん、私の分は――」
 とても笑えないことを言った。
「私のこの身体で払うことにするわね」
 電光石火。
 凛の髪を数本道連れに、何かが壁に突き立った。
 突き立っていたのは――竹刀。ダガー。間桐慎二。葛木宗一郎。ギルガメッシュ。そして私だ。
 その射出元を見れば、セイバー達は平然と鍋を食べているが、ニャーニャ達は私たちの射出の瞬間を見てしまったのだろう、部屋の隅っこで全身の毛を逆立てている。むぅ、今触ったらきっとほわほわしてて手触りが良いのだろうが――恐ろしい。なんと恐ろしい奴らだろうか。だが豆板醤、それより何よりニャーニャ達が無事なので良しとしようか。
 凛はこめかみに冷や汗をたらした後、舌打ち一つ。
「……憶えてらっしゃい!」
 捨て台詞を残し逃亡した。

 それから一週間。
 凛は相変わらず衛宮士郎にたかり続けている。 結局、食費を入れないままで。
 衛宮士郎……なんと不憫な奴……。