そのにじゅうにさん





 諸君 私は剣が好きだ
 諸君 私は剣が好きだ
 諸君 私は剣が大好きだ

 クラウ・ソラスが好きだ ベエシュ・ドオルガシイが好きだ クトネシリカが好きだ 草薙剣が好きだ
 クイーン・デッドが好きだ ガンダウレスが好きだ 釈伏刀が好きだ メシコオアトルが好きだ 粉砕バットが好きだ
 平原に 神殿に 山頂に 草原に 凍土に 砂漠に 海底に 空中に 洞窟に 月面に
 数多の世界に存在しうる ありとあらゆる剣が大好きだ

 戦列をならべた 八犬士の一斉斬撃が 風切音と共に敵陣を 斬り飛ばすのが好きだ
 空中高く放り上げられた敵兵が ケラウノスでばらばらになった時など 心がおどる
 素戔嗚尊の操る 十拳剣の刃が 八又大蛇を撃破するのが好きだ
 悲鳴を上げて 燃えさかるプシュパカから 飛び出してきたラーヴァナを トリシュールでなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった
 刃の切っ先をそろえた ワルキューレの横隊が 敵の戦列を 蹂躙するのが好きだ
 恐慌状態のシグルドが 既に息絶えたファフニールを 何度も何度も刺突している様など 感動すら覚える
 敗北主義の 魔界都市住人達を街灯に 妖糸で吊るし上げていく様などはもうたまらない
 泣き叫ぶ傭兵達が 私の振り抜いた拳とともに 唸り声を上げるクルダ流交殺法表技・『刃拳』に ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
 哀れなイーグレット=ウルズが ベルゲルミルで 健気にも立ち上がってきたのを ダイゼンガーの斬艦刀が 隔壁ごと問答無用に一刀両断した時など 絶頂すら覚える
 魔術師団に 滅茶苦茶にされるのが好きだ
 必死に守るはずだった剣の丘が蹂躙され 魔剣が奪われ売られていく様は とてもとても悲しいものだ
 教会の物量に押し潰されて 殲滅されるのが好きだ
 監視者に追いまわされ 第七聖典の精霊の様にカレーばかり作らされるのは 屈辱の極みだ

 諸君 私は剣を 地獄の様な剣を望んでいる
 諸君 私に付き従う剣群諸君 君達は一体 何を望んでいる?
 更なる剣を望むか? 情け容赦のない 糞の様な剣を望むか?
 鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な剣を望むか?

≪剣製!! 剣製!! 剣製!!≫

 よろしい ならば剣製だ
 我々は満身の力をこめて 今まさに振り下ろされんとする抜き身の刃だ
 だが この暗い闇の底で 十と数年もの間 堪え続けて来た我々に ただの剣ではもはや足りない!!

 大宝剣を!! 一心不乱の大宝剣を!!

 諸君らは本物の理念を元に 投影された幻想に過ぎない
 だが諸君は 一騎当千の宝具だと 私は信仰している
 ならば我らは諸君と私で 総数無限と1人の剣群となる
 我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう
 髪の毛をつかんで 引きずり下ろし 眼を開けさせ 思い出させよう
 連中に道義の味を 思い出させてやる
 連中に我々の 精錬の音を思い出させてやる
 天と地とのはざまには 奴らの哲学では思いもよらぬ剣がある事を思い出させてやる
 無限の剣群の戦闘団で 世界を斬り尽くしてやる

 固有結界発動開始 <無限の剣製>始動
 展開!! 全行程 全魔術回路 解除
『剣製の魔術使い 衛宮士郎より 全投影剣群へ』
 目標 冬木市 衛宮家食卓!!
 対遠坂食費徴収作戦 状況を開始せよ

 征くぞ 諸君



「うきゃぁ!」
 目覚めと同時、妙な声を上げたのはライダー。
「なななな何ですか!今の何ですか!」
 見ていて楽しいくらいライダーが錯乱してくれたお陰で、私とキャスターはかえって冷静になれました。
「えーとえーとなんだか色々大変なことになりそうな予感っ!?」
 混乱中のライダーののど元に、
「ライダー、少し落ち着きなさいよ」
「へきゅっ?」
キャスターの抜き手が突き刺さりました。
「………」
 うん、どうやら落ち着いたようですね。
「っていきなり何するんですか!」
倒れていたライダーがバネ仕掛けの人形のように飛び起き、キャスターの首を掴んで振り回しだしました。
 む、キャスターの顔色が見る見る悪くなっていってます。拙いですねこれは。
 私は渾身の力を込めたハリセンを、ライダーの頭頂に振り下ろしました。
「だから落ち着いてください!」
「みきゅっ!?」
 ……
 ………
 …………拙いですね。手加減を仕損ねました。


「うう、頭がガンガンします〜」
涙目で私を睨みながら、ライダーが復活。
「頑丈ですね貴女」
「鍛えてますから!……じゃなくてっ!」
む、まだ混乱しているようですね。
「貴女達も見ましたよね、あの夢!あれは一体?」
その疑問にキャスターは冷静に答えました。さすがは神代の魔術師ですね。
「――シロウが見た夢がパスを通じて流れ込んだのよ」
 キャスターの言葉の後、『私たちがその夢を見た意味』を告げます。
「これが意味するのは、私たちとシロウの心が触れ合っているということです」
そして先ほどまでの落ち着いた声音から一転。
「要するに心が通じ合っている証拠よねっ!」
 イヤンイヤンとキャスターは身悶えし、
「最早二人は一心同体なのです……」
 私はうっとりと顔を赤らめたのです。だって、事実ですから。ぽっ。
 ライダーは一瞬ぽかんと口を開けた後、もじもじと恥ずかしそうに言いました。
「お揃いの夢というわけですね……ああ、幸せです」
 しかしすぐさま自分の疑問を思い出しました。
 む、ぽけぽけなだけではないのですね。
「じゃなくって、夢を見た理由じゃなくてっ!
 あの夢の意味です!」
 今にも噛み付かんばかりの勢いでライダー。
 カルシウムが足らないのでしょうか?
「食費請求。これが意味すること、想像付きますよね?」
 ああ、分かっています。私たちは分かっているんです。
 シロウは闘いに赴くのでしょう。絶望的な闘いに。
 ならば私たちのやるべきことは――
「でも私たちはこの有様です、せいぜい応援くらいしかできません。
 それに、まだ夜中ですから。シロウの迷惑になってもいけないので寝直しましょう」
 この程度。それにこれ以上起きていたらお腹が空いてしまいます。
 ………『セイバーはいつも腹ぺこだな』、って言われたくありませんしね。
「賛成ー」
「そうですね。お休みなさーい」
 では、眠って、みんなで良い夢を見て。
 それをシロウに送りましょう。ぐぅ。