そのにじゅうご。





 食費納入の確約を得て、数日後。
 遠坂が凄い形相で詰め寄ってきた。
「どういうことよっ!?」
 睨み据えた瞳に宿るのは殺意。
「どういうことって?」
「呪い、解けてないじゃない!
 相変わらず慎二も言峰も、挙げ句の果てにはマキリに葛木まで!」
 怒りを迸らせ、指差したその先。
 間桐慎二がいた。
 言峰綺礼がいた。
 マキリ臓硯がいた。
 葛木宗一郎がいた。
 誰もが――
「お前を悩ましげに見てるなぁ、ははは」
「ははは、じゃ無いわよっ!
 早く呪いを解いてよ!
 っていうか、解ケ。解かナいとオ前をトって喰ウ」
 本気の、目だった。
 でも――ああ、遠坂。お前は勘違いをしている。致命的な、勘違いをしているんだ。
 沈痛な声で、俺は告げた。
「無理なんだ。
 解呪出来るのは呪いだけなんだ」
「どういうこと……?」
 理解できない、といった風に。
 あるいは、理解したくない、といった風に。
 遠坂は、問い返した。
「持って産まれた素養は、消せないんだ。
 それは呪いじゃないから、消せないんだよ、遠坂――」
 倒れかけ、踏みとどまって――
 認めたくなかったこと。
 認めざるを得ないこと。
 目を逸らしたかったこと。
 解放されると信じたかったことを、口にする。
「じゃ、じゃぁ変態が懐いてくるのも、私が借金王なのも……」
「…………」
 答えることが出来ず、俺は目を逸らす。
「私の――私自身の素養って事?ねぇ、嘘でしょ?嘘って言ってよ!」
 これを言ったところで、慰めにはならないだろう。
 心が軽くもならないだろう。
 だけど、告げる。
 解呪の剣を通して知った、事実を。
「お前自身の素養なのか、別の要因があるのか――それは分からない。
 でも、確かなことがある。
 お前に変態が懐いているのも、お前の真っ赤な家計簿も、全て呪いじゃない、ってことだ」
 俺の言葉に、聖杯秘儀者の末裔たる遠坂凛は呻いた。
「なんですって……」
 世界を――世界を呪う、声で。
「それじゃぁ私の……私の、左団扇の生活も、ぼんっっきゅっっぼん!のないすばでぃーも、全部全部叶わない夢だってこと……?」
 答えられない。
 その問いに、俺は答えることが出来ない。
 それは、俺自身には分からないことだから。
 だが、その沈黙をどう受け取ったのか――
 遠坂は――虚ろな声で笑い出した。
「ウフフフフフフアハハハハハハハ」
「あ。壊れた」
 ………俺、悪くないよな?