そのにじゅうはち。
シシャモを担いだ小次郎を追いかけ、走り抜けていくのはハサン。
「待ちなさい!それは黒猫殿の食事です!」
………小次郎、またか。
セイバーに負けず劣らずのハラペコぶりだなおい?
小次郎を追いかけるハサンが悔しそうな声を出す。
「く、届きませんか……
でも、これでは黒猫殿の食事が……」
苦悩に満ちたハサン。
そんな彼を勇気づけるかの如く、言峰が拳を握り、力強く言う。
「距離など問題ではない。遠いと思うから遠い!
距離も時間も、心が生み出した幻に過ぎん……
届かないのならば――届かせて見せるがいい……!
くくくくく、はーはははははははははは!」
「言峰殿……」
黒幕笑いを響かせつつも、高らかに柏手をかました言峰に、ハサンは戦意を取り戻したらしい。
「仰るとおり!届かないなら……死ぬ気で届かせるまでです!」
その台詞こそが引き金となり。
ちゃ〜ららら〜らちゃ〜ら〜ららららちゃ〜ら〜らららちゃっちゃ〜♪
どこからともなく流れるイントロ。
それを奏でているのはギルガメッシュで、
世界の始まりのθ 生命の樹の下で 鯨たちの声の遠い残響 2人で聞いた♪
その曲に乗せ歌い出したのはライダーだ。
「…………これって」
俺の呟きと同時、ハサンはその言葉を口にして、
「無○拳!」
腕を振りかぶり振り抜いた。
軽い音とともに伸びる伸びるハサンの腕。
腕は小次郎を追いかけて縦横無尽に伸びていく。どこまでも、どこまでも。
………どーすんだよ、この状況。
思わず溜息をついた俺の目の前をハサンの腕が駆け抜けた。
答えの潜む王虎王白の太陽 出会わなければ殺戮の天使でいられた♪
この上なく楽しそうなライダーの歌声とともに。
ああ、ライダーってばこんなノリも好きだったのな。
……少しは気付いてたけどな。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
何というか、小次郎もハサンもギルガメッシュも言峰もネタを仕込むのには労力を惜しまないからなぁ。
逃げる逃げる小次郎。
追いかける追いかけるハサンの無限に伸びる拳。
笑う笑う黒幕っぽい言峰。
歌う歌うめっさ上機嫌なライダー。
やがて舞台は終焉を迎える。
一億と二千年後も愛してる 君と出会ったそのθから 僕の地獄に音楽は絶えない♪
歌のサビと同時、ハサンの拳が小次郎を天井に打ち据えた。
………やっちまいやがった。
こいつら全員、今日の夕食はおかず一品+デザート抜きにしてやろうかと思ったけど、他の連中にはすこぶる評判が良いみたいだったので……
まぁ、勘弁してやろうか。