そのさんじゅうさん。





 お留守番のセイバーさん、くうくうお腹が鳴りました。
「む…お腹が空きましたね」
「……そうですね、確かに」
「士郎がお弁当を用意してくれてるはずよ?」
 ライダーさんもキャスターさんもお腹が空いたようです。
『それじゃ、みんなで探しましょう』
 一致団結、3人はお弁当を探し始めました。
 ですが、探せども探せどもお弁当は見つかりません。
 セイバーさんの嗅覚にも引っかからない以上、しまい込んであると言うことでしょう。
 そこで目に留まったのは、日の当たる縁側。猫に身体を預け、ぼけーっとしているバーサーカーさんと、幸せそうに涎を垂らして寝ているギルガメッシュくんでした。
 自分たちはお腹が空いて倒れそうなのに、何故この金ピカは幸せそうに寝ているのでしょう。
 少しむっと来たセイバーさん達、ギルガメッシュくんを叩き起こして訊きました。
「お弁当がどこにあるか知りませんか?」
「ふむ、弁当だと?」
 かなり眠いらしく、ギルガメッシュくんは半分寝たまま答えています。
「そうですお弁当です。知りませんか?」
「そうだな…」
 ギルガメッシュくんはむにゃむにゃ呟くと、寝惚けたまま手を<王の財宝>に突っ込んで、でもそのまま夢の世界に帰ってしまいました。
「人の話の途中で寝るとは何事ですか!」
 セイバーさんが怒れども、完全に寝入っているギルガメッシュくんには何の効果もありません。
「ギルガメッシュに聞くのが間違いなのよ」
 呆れたようにキャスターさん。
 どうしようどうしよう、と考え込んでいましたが、ライダーさんがもしかして、と推測しました。
「士郎さんの事ですから、作り忘れているはずはありません。
 きっと何処かにあるはずです。例えばほら、あの大きな冷蔵庫とか」
 なるほど、それはあり得ます。
 何処か抜けている士郎くんのことです。
 自分とサーヴァント達の体格差が頭からスポーンと抜けて、つい冷蔵庫に入れてしまった可能性は否めません。
 ですが、お腹が空いてしまったセイバーさん達だけでは冷蔵庫の扉を開くのは無理です。
 そこでバーサーカーさんとギルガメッシュくんに協力をお願いしたのですが、
「■■■■」
 バーサ−カーさんは快諾。なんでも自分はまだまだ元気だから力になろう、とのことです。ところがギルガメッシュくんは口元から涎を垂らし、気持ちよさそうに寝たままです。
 正直当てにしていませんでしたが、こんな態度を取られると腹が立つのが道理です。
 お弁当があってもぜーったい分けたげない、と誓いつつ、セイバーさん達は冷蔵庫の前へと進軍しました。
 そして。
「■■■■!」
 気合い一発、バーサーカーさんが力を込めたなら、ゆっくりと冷蔵庫が開きました。
 バーサーカーさんを引っかけたまま開いていく冷蔵庫の扉。
 でも、セイバーさん達にはそんなものは見えていません。
 目指すべきは冷蔵庫の食品棚。
 今がチャンスと冷蔵庫に飛び込んだセイバーさん達は、ゆっくりと、しかし確実に閉じられて行っている扉に気付くことはありませんでした。


 そしてそして、士郎くんが帰ってきたときに見たのは、
「……ぺがさすちゃん?」
 そう、冷蔵庫の前で所在なさげにふよふよ浮いているぺがさすちゃんです。
「まさかとは思うけど」
 なんだか嫌な予感がします。
 慌てて冷蔵庫を開けた士郎君が目にしたのは――
「………、あー。なんていうか、大丈夫か?」
扉と棚の隙間に挟まった状態で固まっていたバーサーカーさんと、
 食品棚の真ん中あたり、身体を寄せ合いカタカタ震えているセイバーさん達でした。


「それで、シロウ。私たちのお弁当は結局どこだったのですか?」
「結局冷蔵庫の中にもなかったし…」
「作り忘れてた、ってことはありませんよね?」
毛布にくるまり、暖かいスープを飲みながらセイバーさん達。
 気になっていたことを訊きました。
 その問いに、士郎くんはあっさりと答えます。
「ああ、ギルガメッシュが『我の<王の財宝>の中に置かせてやろう!作りたての状態が保てるからな』って言ってたから頼んだんだけど」

 抜き足、差し足、忍び足。
 なるたけ音は立てないように、屋敷の外へ逃げ出そうとしているギルガメッシュくん。
「あ、あと少しで逃げ出せる……」
 ですが、運命とは意地悪なものです。
「お、ギルガメッシュじゃねぇか。どうしたんだ、そんなコソコソして?」
 遊びに来たランサーくんに見つかってしまいました。
「な、何でもないぞ」
 一刻も早く逃げたいのに、ランサーくんは逃がしてくれません。
「待てって。どうせまたつまみ食いしたんだろ?俺も一緒に謝ってやるよ」
「い、いや必要ない」
 ギルガメッシュくんは青い顔で逃げ出そうとしています。
「遠慮すんなって。友達じゃねぇか」
 嫌がるギルガメッシュくんを引きずって、辿り着いたのは居間。
「よ、邪魔するぜー」
 入った途端、みんなの視線が集中します。
「な、何だよ?」
 視線の行き着く先は、ギルガメッシュくんです。
 ギルガメッシュくんはその視線に耐えきれず、頭を抱えて震えだしました。
「ランサー、お手柄です。よくギルガメッシュを捕まえてくれました」
「弁当の恨み…やっと晴らせるわね」
「さすがに少し腹が立ちましたよ……」
「■■■■…」
 セイバーさんやキャスターさんはともかく、いつもはお淑やかなライダーさん、温厚そのもののバーサーカーさんも激しく怒っています。
「……ギルガメッシュ。俺、ちゃんと頼んだよな?みんなに弁当を渡してくれって」
 それどころか士郎くんまでも少し呆れ顔です。
 それでようやくランサーくんは理解しました。
(このバカとんでもねー大ポカしでかしやがった!)
 でも、一度一緒に謝ると言った手前、逃げ出すわけにはいきません。
「こいつが何やったのかは知らねぇけどさ。
 俺も謝るから、大目に見てやってくんねぇか?」
 この通りだ、と誠心誠意、心を込めて詫びるランサーくんに、みんなは毒気を抜かれました。
 思い出してみれば、ギルガメッシュくんは寝惚けていました。
 しっかり起こしていれば、あんな事にはならなかったかもしれません。
 ……もっとも、何をやってもギルガメッシュくんが起きなかったのが一番大きな要因ですが。
「駄目か?」
 心細そうなランサーくんの声に、
「仕方ないな。みんな、許してやれるな?」
「……ギルガメッシュ、今回は許してあげます」
「ふぅ。ランサーもお人好しね。仕方ない、あなたに免じて許してあげるわ」
「そうですね。二度とこの様なことの無いようお願いしますよ」
「■■■■■」
 ようやくいつもの空気が訪れました。
 以後、ギルガメッシュくんはランサーくんに頭が上がらなくなりました。
 ……頭の上がらない人がどんどん増えていってますね?


 さてその日の夜、さらなる事実が発覚しました。なんとギルガメッシュくん、<王の財宝>の仕分けをうっかり間違えて、冷凍保存エリアにお弁当を入れてしまっていたのです。当然お弁当はイイ感じに凍り付き、とても食べられるような状態では無かったそうです。 ギルガメッシュくんの当面の食事が凍結弁当になったのは、また別のお話です。