そのさんじゅうきゅう。





 ようやくお披露目の時が来ました。
 凛と立つアーチャーが双剣を掲げ、その名を叫びます。
「アヴァロン!」
 空を切り裂き現れたのは、鞘の形の魔導機械。
 それが変形し、獅子の姿に。
 その獅子に、
「フュージョン……!」
 アーチャーが合体し、人型に変形しました。
 続いて叫びが轟きます。
「ガオーブレードっ!」
 召喚に応え、姿を現すのは4本の剣と1つの盾。
 それが剣の名を冠した5体の獣へと変形しました。
 青龍の姿のムラクモガオー。
 朱雀の姿のデュランダルガオー
 白虎の姿のシパルーガオー。
 玄武の姿のアイアスガオー。
 麒麟の姿のガラトボルグガオー。 
 それらは人型となった獅子型概念武装の周囲を舞い、
「ジャスティスッ!フュージョンッッッ!」
 合体シークエンスに。
 同時に流れ出した音楽を奏でているのは、勿論ギルガメッシュの宝具です。
 便利ですね、<王の財宝>って。
 やがて合体が終了し、そこにそびえるその姿。
「ガオ!エミヤ!」
 ああ、その時の衝撃をどう言えばいいのでしょう。
 その胸の中央には獅子。
 ムラクモガオーが変形した竜の角型の刃を持つ右腕。
 アイアスガオーが変形した盾を装備した左腕。
 ガラトボルグガオーが変形した右脚の膝にはドリル。
 シパルーガオーが変形した左脚の膝には2本の刃。
 趣味ですね。思い切り趣味に走ったその姿。
 アーチャー曰く、『正義の究極の姿』だそうですけど……
 ぶっちゃけ、でっかい(マスターさんくらいの大きさの)メカメカしいアーチャー。
 ………ああ。私はこんなモノを作る手助けをしてしまったのですね。
 なんだかガックリ来ちゃいます。
 でも私は製作に携わっていましたから、まだ軽い方ですね。
 向こうで良識派であるバーサーカーが呆然としています。
「うわ、なんだこのやっちまった感」
 ランサーはうげーと青ざめて、小次郎とハサンはそれとは対照的に目をキラキラさせています。
「うわぁ、合体ロボだ。いいなぁ、私も欲しいなぁ」
「羨ましいことで御座いますな、小次郎殿。ああ、私たちもいつかきっと!」
 う。なんだか悪いことをした気分になります。
 なにしろ、ついでだー、と言わんばかりに私たち専用のダイナミックでゼネラルな何かが作られちゃいましたから。
 取りあえず内緒にしておきましょう。ないしょないしょ。



 念願の巨大合体ロボを手に入れた喜悦を込めて、アーチャーが万感の想いを込めて叫びます。
「俺の正義は………負けない!」
「家政夫の正義か?」
「そこっ!やかましいっ!
 ブロウクン・ファンタズムッ!」
 茶化したランサーに向け、アーチャー――いえ、ガオエミヤと言うべきでしょうか。その右腕から何かが射出され。
「みぎゃぁぁぁぁ!?」
 爆発しました。
「お、おい。ちょっとやり過ぎではないか?」
 その様を見て、ギルガメッシュが抗議しましたが、
「私の正義を侮辱したからだ!」
「そ、そうか………」
 アーチャーの勢いにすごすごと引き下がりました。
 ヘタレな英雄王ですね。
 腰が退けたギルガメッシュに、ガオエミヤ。
「ちょうど良い機会だ。ギルガメッシュ、協力してくれるな?」
 その言葉の外に込められた強要にギルガメッシュは敗北しました。
 ………このひと、本当に最古の英雄なのでしょうか?つくづくヘタレすぎます。
「うう、なんで我がこんなことを……」
 文句を呟くギルガメッシュを変えたのはガオエミヤの一言。
「協力してくれたら、衛宮士郎が風呂吹き大根を作ってくれるぞ」
「よし、我に任せておくが良い!」
 ……ギルガメッシュは本当に大根に目がありませんね。
 まぁ、英霊にも色々いますし。中にはあんなのがいてもいいのでしょう。
「風呂吹き大根、風呂吹き大根♪」
 浮き浮きした表情のギルガメッシュが鍵状の短剣を取り出し、そしてその力を解放します。
「約束を忘れるなよ!破ったら我は泣いてしまうんだからな!
 では……
 我、法を破り理を越え破壊の力を欲す者なり!
 聖剣よ魔槍よ神刀よ、蹂躙し駆逐し滅却せよ!
<ゲート・オブ・バビロン>イグジスト!」
 ガオエミヤが降り注ぐ宝具――ただし威力はお察し下さい――の雨に左手を突き出し、
「アイアス・シェード!」
 叫ぶと同時に光が奔りました。
 それを喩えるなら左腕に咲いた光の花。
 咲き誇るそれが全ての攻撃を無効化しています。
 それを見ていた士郎さん。
「相変わらず良い感じだな<熾天覆う七つの円環>」
 それに応えてガオエミヤ、
「流石だよな俺たち」
 二人揃ってとっても良い笑顔でサムアップ。
 本当に仲良しさんになりましたね。良いことです、多分、きっと。
 そうこうしてみんなでわいわい騒いでいたら、おやつの時間になりました。
「………!」
 声にならない悲鳴をガオエミヤが発しました。
 どうしたのでしょう?
「大変だ、衛宮士郎!」
「どうしたんだ?」
「この姿ではケーキを喰えん!」
「……フュージョン解けばいいじゃないか」
 苦笑まじりに士郎さん。
 あ、と呟き、照れ臭そうな顔のアーチャーが出てきて。
 そうして、みんなでお茶とケーキを頂きました。
 美味しい美味しいケーキでした。


 その夜、衛宮家の庭。
 丸まって眠る獅子型以下6体の魔導機械を眺めつつ、私はつらつらと考えます。
 私達はなんであんなモノを作ったのでしょう?
 聞いたところで返ってくる答は想像付きますけどね。
 どうせ暇つぶしだとか、なんとなくだとか、その場の勢いとか。
 きっとそんなものです。
 でも、ですね。
 私は、こんなバカ騒ぎをして、みんなが笑っているこの場所が。
 とても、大好きなんです。