夢の海より貴方を恋う。





 私にとって貴方は只の契約者。
 その筈だった。
 使役し使役されるだけの関係。
 その筈だった。
 しかし貴方はどうして私に微笑みかけるのだろうか。
 それが、不思議だった。
 それが知りたくて、私は――
 感情を、得た。
 なぜ、私に感情が生じたのか私自身にも分からない。
 ひょっとしたら前の使役者――真祖である、金の髪と紅い瞳を持つ彼女の気まぐれかもしれない。
 何はともあれ――私ははじめて切望したモノ――感情を得た。
 それは紛れもない事実。
 しかし、まだ未熟な感情なのも事実。
 芽生えたばかりの感情は、未だ私に表情を与えていない。
 しかし、貴方に笑顔を貰うたびに私は思う。
 ――私も、こんな風に貴方に笑顔を返したい。
 と。
 何かを求める。
 自分のためだけの何かを求める。
 以前なら考えられなかったことだろう。
 使い魔だった頃の私には、望むことすら思いつかなかったいくつもの事。
 貴方と一緒にいたい。
 貴方の笑顔が見たい。
 貴方に笑顔を見せたい。
 貴方に必要とされたい。
 つまり。
 貴方が――恋しい。
 こんなにも、溢れてくる想い。
 痛い。
 痛いけど、甘い。
 心をとろけさせるような、痛み。
 使い魔らしからぬ思考。
 いや、感情。
 そう。
 私は感情を持った時点で――
 使い魔ではなくなっていたのだろう。
 前の使役者。
 真祖の姫は言っていた。
 貴方は全てをコロスのだと。
 ならば。
 自分を縛る鎖。
 使い魔としての宿命。
 そんなものを――
 貴方は。
 コロシタのだろう。


 今宵も私は貴方を恋い、夜の闇より滑り出る。
 夢幻と現世の狭間。
 そこに住んでいた私は、今は現世により近い。
 それは、貴方が現世の存在だから。
 貴方がいる。
 だから私は現世に有ることを願う。
 今。
 私は現世にあり、私自身にとって最も大切な貴方の寝顔を見ている。
 よく、寝ている。
 命を感じられないほどによく寝ている。
 微かな不安を感じ、指を貴方の顔に這わせてみたら。
 感じる。
 微かな息づかい。
 微かな体温。
 生きている。
 貴方は生きている。
 確かに貴方は生きている。
 私は安堵し、そして貴方の隣に滑り込む。
 すると微かな温もりを感じる。
 今、確かにそこに貴方がいることを知らせてくれる。
 貴方の体温が、私の思考を穏やかなモノに変えていく。
 安堵。
 思慕。
 安寧。
 そんなモノを与えてくれる。
 私は――
 多分、貴方の温もりを夢にも見るだろう。
 貴方も私の温もりを夢越しに感じてくれているだろうか?
 そうだったらいい。
 そうだったらどんなに嬉しいことだろうか。
 そう願いつつ。
 貴方の温もりを感じつつ私は眠り――
 そして貴方の夢を見る。