第三夜・深淵より来る


「河童を捕まえに行こう」
 突然虎蔵が言い出した。
「は?」
 私は訳も解らず聞き返した。
「河童?何でそんなものを捕まえに行かにゃあならんのだ?」
 ・・・・・・既に河童は居るものと思っている自分が少し哀しい。
 まあ、あれだけ怪異に会えば仕方ないかもしれない。
 いや、きっとそうだ。
「いいじゃないか行こうや」
「あたしも一緒させてもらうよ」
 美津里まで。
 全く、何でこいつらは私の周囲に集うのだろうか?


「さぁここが河童がでると評判の!」
「印須磨州だ!」
 ・・・・・・妙に息が合っている。
 何を企んでいるのだろうか?
「まずは河童をおびき寄せなきゃな。美津里!」
「はいな」
 美津里は懐からなにやら奇妙な書物を取り出した。
「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅるふ・るーりえ・うが・なぐる・ふたぐん!・・・・・・」
 美津里の詠唱は続く。
「いあ!くとぅるふ!」
 そして、海から。
 何かが、来る。
 少なくとも、100体。
「・・・よし!」
 虎蔵が両手を打ち付けた。
 虚空より数珠が現れる。
「我以雷牙雷母的威声 成五行六甲的兵・・・」
 突風が吹き渡り、私は思わず目を覆った。
「千邪斬断万精駆逐抜山蓋世起風・・・発雷!」
 轟。
 すぐ近くに大きな雷が落ち――風は止んだ。
 目を開ければ、もはや海には異様な影はない。
 幻だったのか?
 そう思いつつ、足元を見たら──そこに、居た。
 気絶しているらしく、ぴくりとも動かない。
 目の前に転がっているそれを指差しつつ、私は虎蔵に尋ねた。
「・・・・・・河童か、これ?」
「河童だ」
 何かが違う。
 河童と言えば皿があって、甲羅背負っているのではないか?
 どう見てもこれは・・・
「なんだか蛙と魚と人をごたまぜにしたような」
「だからこれこそが河童」
 嬉しそうに美津里がわきわきと手を動かしている。
 ・・・何だか怖い。
「第一ここは海」
「「河童!」」
 ハモってやがる。
 どうあってもこれを河童だと言い切るつもりらしい。
 しかし、不意に疑問が浮かぶ。
「で、これをどうする?」
「「喰う!」」
 あ。またハモってやがる。
 って言うか。
「喰うのか?これを?」
「「そのとおり!」」
 ・・・・・・冗談じゃないぞ。
「じゃあ俺はこれで」
 逃げねば。
「まぁそうお言いでないよ、京太郎」
「一緒に喰おうや。ちょっとした珍味だぜ?」
 逃げようとしたが、結局捕まる。
 しかし喰うのだけは避けたい。
 こんな訳の解らないものが喰えるか!
「いや、俺は腹減ってないし」
「ちっ。つまらねぇ」
 虎蔵はそう言いつつ、段平をどこからとも無く取り出して一閃。
 あ。
 と言う間もなく、ぶつ切りになる河童(?)
 それを鍋に白菜だのネギだのと一緒に放り込む美津里。
 本当に喰う気だ、こいつら。
 3人で酒を飲んでいるうちに、鍋が煮立ち、何とも言えない匂いが立ちこめてくる。
「お。出来た出来た」
「でわ・・・」
「「頂きます♪」」
 うわ、本当に喰ってる。
 しかも旨そうに!
「うん、矢張り旨いな」
「ああ。この時期が一番旨いからねぇ」
 私の目の前で、見る間に鍋の中身が減っていく。
 ふと横を見れば美津里のとこの『生き物』が河童(?)の肉の残りを長持に入れ、運ぼうとしている。どうやら家でも喰うつもりらしい。
 ・・・・・・当分美津里の家で出されたものは喰うまい。
 そう決心しつつ、私は酒を飲み続けた。

 深淵より来る 印須磨州を喰らう影・完

−解る人は解るはず。
「・・・・・・うわぁ」
−と言うわけで短編というか、休憩。
「でも食べますか?アレを?」
−なんか知らんが書いてるうちにこんな事になった。
「HPL、泣いてますよ、多分」
−あははははははは。