かげろう

 

山本 潔

かげろうがとんでいるところを見た
これが数日もすれば死んでしまうという
あの虫だ
やがて私も
どこにもいなくなるのだが
それらのことに何ほどの違いもないことが
気持ちをうれしくさせる
ひとつの小さな存在をひっそりと主張して
早々にいなくなるために
こんなにもかげろうは
すきとおっているのだろうか
まるで心すらないもののように
いないことでいることをさし示すように
かげろうは
いましも
水色でぬりあげたような空へ
まいあがろうとしている

  
 
山本潔さん 第一詩集 『半島記』より
発行日:1979年8月15日 発行所:野草舎 跋文:じっこく おさむ 定価:1500円