晩夏まで

 

佃  学

歳月のむこうへ日差しがはしる
青銅時代の雲がモノクローム
の目録から逃亡する
無我の雨にむらがるものは
武装をとかれた夏の印象
きみの押印はかなしい
迷宮のようにあわだっているだろう

セミシグレにまぎれて
ボロギレの海ごしに「時」
の乳房をひっそりさかのぼったんだ
カラスも飛ばない青空が
段々畑に脅迫されているのか
「経験」の引き裂かれた流れが
バネのようにはねて・・・・・・

遠雷に恋したよ
セスジツユムシの罪ほどに
なけなしの余香を求めて
めざめのこちら側で
溺死した黒いヒマワリ

日差しは「定義」の
停泊した袋小路をいそぎ
旅の単調がひびいてくるんだ
単調すぎる八月の
ツルにからまれた八ツ裂き
母音のような
歳月に恋して

  
 


 佃学(1938〜1994)詩集 『炎天』より
発行日:昭和61年12月20日 発行所:沖積舎 定価:2000円
装釘:藤林省三 photo:住谷みどり
「晩夏まで」の初出:『詩研究』90号(1978年11月発行)
詩集『炎天』は、『詩研究』元同人、渡辺(旧 中西)光子さんから、2003年6月にいただきました

*サイト管理人より
 詩集の「あとがき」に代えての詩に、なぜか心がひかれましたので、 紹介させていただきます。
 なお、依代には、(ヨリシロ)のルビがついています。

    
     
 
 
 

(炎天は)──「あとがき」に代えて
 

炎天は
わが肉と魂の病い
先験的な夢の炎症
単純なことよりも
複雑で難解で困難な感覚に
運命的に魅かれてきたのである

  (たまゆらの
  依代さながら
  奈利をめぐり)

いま 神無月
ツワブキの花がいくつか
カテーテルのように発熱して
無残なカルテの夕陽をまさぐっているばかり