スーさんの似顔絵


さや まりほ


 二枚舌なんて、そんなのありっこないよ。もし、舌が二枚あったら、口や喉の構造も違ってなきゃいけない。そうなると顔や頭の形も、全然違ってくるからね。それと、発声が変わると言葉も変わるはずだよ。

 実はね、口を二つ作ろうかって話があったんだ。え? 創世記の時だよ。ひとつは真実を話す口。もうひとつは嘘を話す口。そうすれば、人を支配するのに便利だろうと考えたんだ。六人目の神様がね。

 六人目……だよ。そう、この世を造ったのは、一人の神様じゃない。本当は六人の神様のプロジェクトチームだったんだ。創世記に出てくる神様はまとめ役で、何も造っていない。ただ報告を受けて「良し」と言っただけさ。

 で、人間を造った神様っていうのが、六人の中で一番できが悪い。できが悪いから一番簡単な仕事がまわってきた。そうだよ、一番簡単だったんだ。考えてもごらんよ。ただ自分たちに似た一種類の生物を造るだけだもの。たくさんの動物や植物を造るオリジナリティと労力とは比べものにならないよ。それに光と闇を造るなんて、そりゃあものすごいことさ。

 まあ、六人目の神様も、まるっきり創造性がないんじゃつまらないから、口を二つ作ることにしたんだ。うん、そうなんだ。嘘を話す口から喋ると嘘だとバレるから、ばかげてるよね。だからもちろんこのアイデアはボツになったけど、実現しなかった本当の理由はほかにあったんだ。設計図の段階で、二つの口をどう配置していいのか、このドジな神様、どうしてもバランスよくできなくってね。

*          *

 そんなわけで二つの口を持つ“アダム1号”は造られることはなかった。しょうがないから、やっぱりひとつの口の、つまり自分たちに似た人間を造ることにした。材料も自分で調達できないもんだから、大地を造った神様のところでもらってきてね。

 やっとできあがった"アダム2号"をつれて、上司の神様に報告に行ったんだけど。それがまた言い訳がましいこと言うんだ。

  

 この度は、我々神と同じ姿をし、又、この世を支配する人間を造るという、重大かつ名誉ある仕事を私にお任せくださいまして、誠にありがとうございます。ここに、無事完了致しましたことを御報告申し上げます。

 中間報告では、人間に二つの口を持たせ、それぞれに真実と嘘を分担させるということでありましたが、以下の理由により、我々神と同様、一つの口に統一することと致しました。

 人間が進化するにつれ、社会構造も人間の心の有り様も、複雑多様になってまいります。そうなれば、人間の話す言葉を、真実と嘘の二つに分類することの不可能となる日が遠からずやってくることでありましょう。

 我々は、この世を混沌から造りあげてまいりました。私は人間の心の奥深くに混沌を残しておくことに、大いなる意義を感じたのであります。………

   

 とかなんとかね。上司の神様は黙って聞いていて、何も意見を言わなかった。少しため息をついたけどね。

 ただ、アダム2号をごらんになって、「まあ良し」とおっしゃった。それから六人の神様たちに一日の休暇をお与えになったのさ。


(『しけんきゅう』126号 1995年11月発行)

    


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