The Origin

さや まりほ


   

─ きっと きっと 伝説が生まれますよう

ことさら 赤い花びら を 選んで
森の精 は
風 の うた
(詩歌) を 口ずさむ

すずやかに 緑葉をたたえた 大木
それは 伝説の始まり

白い羽根 ひらひら と   
蝶は 空から降りてきた

夏の夜
小悪魔 の しでかした ほんの悪戯の嵐
一瞬 の 稲妻
大木 は 昇天 したのです。

白い花びら ひらひら二枚   
いえ、あれは蝶が真二つに

ああーッ
そんなつもりじゃなかった
黒ずきん の きゃしゃな体で 小悪魔
もう 終わってしまったのかしら

─ きっと きっと 伝説が広がりますよう

ことさら 赤い花びら を 集めて
森の精 は
しずく の ように 湖に降り注ぐ

─ なにも おまえ(小悪魔)が泣くことはないのです

もしも……
大木 は 稲妻に 選ばれたのでは なく
自ら 空をあおいだのだと すれば……
白い蝶 を 印 に
「私 ハ ココ ニ イル」と
手始めに かわいいおまえ
(小悪魔) を 挑発 した

─ だから 手伝ってくださいな

赤い花びら が いいのです

白い蝶 よりも 激しく て
蝶の羽根 よりも 軽やか で
蝶の羽根 よりも 夭折 で あるために

     ─ きっと きっと 伝説が美しく伝わりますよう ─

おまえ の 尖った指 で
赤い 花びら
湖 に したたらせて


(『しけんきゅう』111号 1987年11月)