軌  跡

さや まりほ

  

チリン チリン
細胞分裂
の 音 が する

原始生物 は
先端 を ふるわせ 拡大してゆく
手も足も頭もなく 部分が全てをかねそなえ
透明 な 姿 で
ゆくて を 求め続ける

細胞分裂
の 音 が する
薄い薄いガラスの鈴 が ふるえる

チリン チリン

真夜中の高速道路
おとこたち は 殺気だち
おんなたち は 不安に身をまかす
チリン チリン
あっ また鳴った

    オトコ ノ ヒトラ 命ガケ ネ。
    ダイジョウブ ヨ、イッショニ 死ンデ アゲナイ。

チリン チリン
こんな ハイスピード では
ヘッドライトを受けるポイントは 次々に かき消されていく
星 だけが動かない
ハレーすい星 今は見えないね

チリン チリン
時速 100 キロを超えた マシン
の 先端 からは
秒速 300,000 キロ の 光
が ゆるやかなカーブ の ゆくて を捜す

秒速 300,000 キロメートル
時間 が 止まる
この 光
の ゆくて は 時速100キロぶんの 過去 かしら

チリン チリン
線香花火
は 先端 を 丸めて
光 を ためる

ねえ
せっかく無事に帰れたというのに
君ひとり バイクで大ケガするなんて
別れて 10 時間後
一瞬
君の 天地 は ひっくり返った

チリン チリン
可能性 を 求める もどかしい時間
君の肩の細胞は 無限の新陳代謝をくり返す
部分を全体として受ける やわらかな肉体

ねえ
君は 気づいてるの
天地 を ひっくり返したのは
君自身だってこと

チリン チリン
細胞分裂
の 音 が する
ゆくて を はばまれたら
接触点 を 丸めて 種をつくる
太古から 万物は 丸い 姿 で 身を守る


(『しけんきゅう』108号 1986年6月発行)

 
  
※ サイト管理人より
 この作品を読んで、相対性理論の知識のある方、ない方も、首をかしげたかもしれません。
 ヘッドライトの先が、「秒速30万キロメートル+車の速さ」ということは、ありえません。
 光の速さは一定(秒速30万キロメートル)です。
 もっとも、私がこの詩を書いたとき、本気で「秒速30万キロメートル+車の速さ」を考えました。(単に知識がなかったので)