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2005年受注 一卵性異種ロボット
さや まりほ
(前編) ウエハースを食べる恐竜
う〜、二日酔い。おまけに変な夢見ちゃって。お、木島いいなあ。花井さん、ボクもお茶お願い。
木島は大丈夫なの。営業部長の話、ムナクソ悪くって、そのあとガンガン飲んで……ボクだけ? そうだっけ。
ボクね、やっぱり今のうちに歯止めしといた方がいいと思うんだ。ロボットはあんまりリアルに作っちゃいけない。カン違いするようになる。たとえ犬でも。きょうの会議で言おうと思うんだ。
花井さーん。あのね、この前ボクがお茶の入れ方文句言ったからって、何もストップウオッチでお茶の抽出時間を計らなくってもいいでしょ。
ふう……極端な話をするようだけど、人間のクローンを作っちゃいないのなら、人型ロボットもやめるべきだよ。分ってる。これの心配は当分先のことだよ。
ボクが言いたいのは、ペットや介護用の動物ロボットは機械っぽさを残しといた方がいいってことなんだ。鳴き声や手触りやしぐさまで、そっくりにするなんて反対だ。これはモラルの問題なんだ。
ウチの会社もそのうち人型ロボットを作るんだろう。きのう、ボクたち先に出て行ったけど、残った連中から何か聞いた?
あ、ありがとう。あちちっ! 花井さあん、お茶置く時に一言、「熱いですよ」と言って欲しかったなあ。別に温度測らなくっていいからさあ。
ごめんごめん、いやー、花井さんの入れてくれたお茶には、もれなくかわいい笑顔が付いてくる。うん、これがわが「盲導犬ロボット」開発チームの、かけがえのない心のオアシスなんだァー。
う〜、口が回っても頭が回らない。イテ!
いいでしょ、このくらいの口の回りは。きのうの営業部長はすごかったよお。
かんにんしてやあ。資金繰りが苦しいもんやから、いろいろ計画が変わってしもうて。
そや、聞いたでえー。山本君は家でもソフト開発しよるんやてえ。手っ取りばようお金になるソフトができそうなんやてなあ。え、趣味、趣味かいな。趣味でもええわ。もし売れそうなもんができたら、いつでも持って来てや。特別手当はずむでぇ。
売る方は、心配せんでも営業部にまかせてくれたらええがな。売れるもんなら売ってみせる自信があるさかい、ドーンとまかしとき。まあ、趣味なら売れんもん作ってもしゃあないけどな。仕事の方は、売れるもんでないとあかんのやわ。
言いたいこと、さっさと言えーー。
ん、お茶おいしいよ。花井さんみたいな人型ロボットがあったらボク買っちゃうもんねー。え、セクハラ? セクハラになるの、これ。ぐっ、人間の世界は難しい。
* *
それにしても頭ガンガンするなあ。会議どうしよう。昨日は先に帰ってまずかったかなあ。木島、付き合わせてゴメン。
新しい顧客がどうとか言ってたなあ。そういや一回チラッと見たぞ。舌かみそうな長ったらしい名前の外人。
ゆうべ、なんとそいつが夢に出てきたんだよ。ねえ、昨夜見た夢、聞いてくれる。
ボクは前後にものすごく長いウエハースでできた帽子をかぶってるんだ。たぶん50mぐらい。幅は頭と同じ。うまく説明できないけど、頭の後ろにあるウエハースがボクの過去の記憶。前に出ているのがボクの未来の記憶。そ、未来の記憶だよ。あるんだからしかたないでしょ。
で、恐竜がさあ、ウエハースを前の方から食っていくんだ。バリバリバリバリ、だんだんボクに近づいてきて……逃げたよ、逃げたよ。後ろの、つまり過去の記憶のウエハースを引きずりながら必死で。
するとだよ、戦車がやってきて、その戦車からアーミー服着たあの外人が出てきたんだ。やつがボクのウエハースの帽子をぽんと取り上げるとだよ、普通の大きさのウエハースになって、それをボクの胸のポケットに入れるんだ。それから戦車の中に入れてくれてさあ。
ん、どうしたの、二人とも変な顔して。いやその、花井さんは美人だよ。ついでに木島もハンサム。
もしかして……あいつ、どっかの国の軍の関係者?……会議、30分後だよね。
花井さん、お茶おかわり。濃い目にしてくれる。別にお茶っ葉の量を計量しなくてもいいからさ。
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(後編)円空仏は語る
もしもし、ああ、花井さん。急に休んじゃってゴメン。うん、あしたっから出ていく。
今? んー恥ずかしいけど見せようかな。映った? そう、円空仏。ボクこれ作って遊んでるの。バーチャルだよ、木に見えた? 本物そっくりに見えるのはね、ボクがノミを動かすんじゃなくて、ノミの動きをプログラムしてるからなんだ。ノミを握ると円空のノミの動きを体験できるわけ。
まさか、刃物ついてないし、計算もいいかげん。でも、う〜ん、こわいよ。足腰と根性がどうしようもなくいいかげんだから。
昔はね、御神木といって、木に神様が宿っていたんだ。そういう木を見つけて印つけるみたいに仏像を彫ったんだ。印だからね、おおざっぱで、それが雰囲気だしてるの。お、するどい質問。神仏混合だったの。
* *
ところで、何か用があったんじゃない。えっ、あのじいさん、また何か言ってきたの。木島が出たぁ……まずい! なんだ、営業に回したの。引き延ばし……よしよし最善の策。
あれねぇ、孫が死んで、孫のかわいがってたハーネスUJ6号のソフトを入れた人型ロボットが欲しいっていうんだよね。
この前別のことで営業部長にイヤミ言われてさぁ。
かなわんなぁ、木島君には。クライアントはんの対応にはもっと気ィつけてもらわんと。学生やあるまいし、なんでもかんでも理路整然と答えたらええゆうもんやないやろ。問題点がはっきりしてもうて、そっから突っ込まれるがな。山本君がしっかり指導してくれんとぉ……。
と、言われてて何も伝えてない……はは。
ボクね、あのじいさん、どーも利用されてるんじゃないかと思ってさぁ。んー、さぐり入れるのに。ウチの会社がどこと組むか、とか、倫理感覚とか。
さあ……それは何とも、ね。ボクが一番疑っているのは、例の軍人さん関係。新しいプロジェクトのこと、聞いてない? ほんと言うと、ボクにもよく分らないんだ、何をやりたいのか。ボクが昔だしたアイデアを使うっていうのにね。というより、開発しながら利用方法を考えよう、ってことになってる。お金がないとできないことだから嬉しいんだけど、どーもイマイチ乗れない。
花井さんなんかの入社前だよ。社長の肝いりで、アイデアコンテストがあったんだ。実現不可能なものでもいいからっていうんで、本当にそういうの出したんだ。
動物の脳の海馬のところに、小さな機械を埋め込んで、感情の変化を電気信号にして、それを動物ロボットに使うっていう……気持ち悪くない? 大丈夫?
生まれてすぐ入れて、ある程度大人になるまでのデータをとるんだ。成長型ロボット用に、基本的な未来の性格の入ったソフトを作るんだけど。ボクは「感情のDNA」なんて呼んでいる。そう、同じソフトを入れても、それぞれの環境でロボットは違う性格になるよ。人間の双子といっしょ。
人型ロボットの場合は、人間の脳に埋め込めないから、例のネットみたいなのを被せてね、役者さんに演技してもらうんだ。いろんな場面を想定して。
ははっ、思いっきりボツになった。う〜ん、今と価値観が違うよね。
正直言うと……実はボク、会社に借金することになった。オヤジが保証人になってる相手、ちょっと都合の悪いことになっちゃって。それで会社休んでたんだ。うん、貸してくれる。あ、それはないない絶対ない。オヤジとは古い付き合いで、ボクもよく知ってる人だから。第一、別にボクがいなくても、あのプロジェクトやれるもの。それって買いかぶり。
* *
ボクね、あの外人さん気にくわないけど、アイツの信じてる神様にはちょっと興味あるんだ。
神様がこの全宇宙を創ったっていうんだろ。ボクたち生物は、神様が作ったロボットかもしれないと思ってさ。あらかじめ死をプログラムされてね。未来の記憶も本当はプログラムの中に入ってるんだ。で、秩序を保つために、「未来の記憶は思い出せない」ようになってる。
生物の構成要素ってほとんど同じだろ。猿と人間なんて悲しいくらいDNAが似てたりして。大量生産するには都合よかったかも。
バーチャルで、円空と付き合ってたら、そんなこと考えてさ。おかしい?
んー、この円空はお金にならないよ。というより、これを会議にかけて、ああだこうだ言われたり、あちこちいじくられるのは、いやだもの。自分勝手だと思う? ……よかった、ありがとう。
さて、新しい部署に移る前に、犬と人間の一卵性異種ロボットも何とかしないと。あのじいさんの依頼、たぶん最終的には引き受けると思うよ。
ふぅ、あしたっから忙しくなるぞー。花井さんが朝イチに入れてくれるお茶を楽しみにして……っと。
じゃ、おやすみ。電話ありがとう。
画像は、Jun Akiyamaさんが撮影したものに、画像処理(油絵)をほどこしました。
(初出:サイト 『Creator's Synopsis』 2001年1月投稿)
(『しけんきゅう』136号に掲載 2001年6月1日発行)