居候させてもらっていた伯父は、田舎の町内ではちょっとした名士らしく、町議会議員や
町内消防団(消防署とは別に地域の火災などに消防車でかけつけ消火活動を行う)を
していた。 にゃおたちが居候を始めてしばらく経った頃に、任期満了にともなう
町議選挙が行われることになった。 その時も伯父は出馬する意向であり、
出馬すれば当選は確実と見られていた。

ある朝のこと・・・
起きてみると庭が騒がしかった。 パジャマのまま庭に出てみると、みんなが犬小屋の
あたりに集まっている。 近寄ると、コリー犬が横たわっていた。 口からは血泡を吹き、
目をむいた状態だった。 その時、子供だったにゃおには、わからなかったのだけど、
母が後から教えてくれたところによると、コリー犬の死因は、何かを食べたことに
よるらしかった。 コリー犬もロックも放したりはしない。 鎖をちぎって逃げ出すことは
あったけれど、昨夜はそんなことはなかった。 家の敷地内に鎖でつながれている犬。
夕べ、伯母がエサを与えた時には元気だった犬。 その犬が毒を食べて死んだ。
それを意味するものはなんなのか。
「やられたんじゃね」
赤く目を腫らした伯母が一言、憎々しそうに言った。
伯父の町議選挙を妨害する目的か、はたまたイヤガラセなのか。
憶測の域は出なかったが、伯父の家の犬が誰かに毒を盛られて死んだというウワサは
静かなさざなみのように地域に広がっていった。
「あんたんとこも気をつけんさいよ」
母の買い物について行った店先で会った、近所のオバさんが母に告げた。
その時、ロックはコリー犬とあんまりケンカをするからと、少し離れた場所に
つながれていたのだ。 にゃお家は直接は町議選とは関係がない。 ただ、もしも
イヤガラセなどの悪意を持った者の仕業だとしたら、それはありえる話だった。
夜になって、母とエサをやりに行った時、母はエサを食べているロックの
頭をなでながら言った。
「あんたはねぇ、くいしんぼうだから。 変なもの食べるんじゃないんよ」
それが、生きているロックを見た最後になった。

翌朝、叫ぶような鳴き声で母がにゃおを呼んだ。
「ロックが・・・ロックが・・・」
すでに冷たくなったその姿は、つい数日前に見たコリー犬そのままだった。
コリー犬の時は、その不審に満ちた死であったにもかかわらず、誰もが、まさか
そんなことをするなんて・・・と思っていた。 もしかしたら、何か別の原因が
あったのかもしれないし・・・と疑惑を打ち消すように話し合った。
でも、この現実は、疑惑が間違いないものであったことを証明している。 たった1週間
足らずの間に、「鎖につながれていた犬が2匹も毒を食べて死んだ」のだから。
「ばかだねぇ、昨日、あんなに変なものを食べちゃダメだって言ったのに。 だから
ご飯も多めにやったのに、食い意地が張ってるからこんなことになるんよ・・・」
ロックの体を何度もさすってやりながら、母の目からは涙がハタハタと落ちた。
ロックはねこ車(一輪車)に乗せられて、コリー犬が埋められた山へと運ばれた。

その後、伯父は町議選に再選を果たし、なんの関係もない2匹の犬を死に至らしめた
犯人の正体は最後までわからなかった。



ロック、たった3年足らずの短い命。 

彼女やコリー犬が埋められた山は、すでに大規模なスポーツ公園になってしまった。

 手元には数枚の写真が残っているだけだ。




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