それでもミシンを買いました 13  決着

     クーリングオフ期限が近づくにつれて、別の不安が募ってきた。
     あの時、サービスにつけますからと言った「サイドカッター」。 チラシ広告に乗せていた
     プレゼント用のではなく、もう少しいいのをあげるからと言ったあのサイドカッター。
     それはまだ手元に届いていない。 もしかして、あれは兄ちゃんが届けに来るんじゃないだろうな。
     それには、ものすごい抵抗感があった。 どう割り引いて考えて、あれはにゃおの考えすぎだったと
     しても、顔を合わせるには気が重すぎる。 

     ところが、そんなことを思っていた日の午後、「それ」は郵便で届けられた。 小さめの茶封筒に
     入れられて。 郵便受けにそれを見つけた時、安堵の気持ちと、残念な気持ちの両方が
     自分の中にあった。 兄ちゃんに会えなかったことが残念なのではない。 あれだけの
     金額のものを買った客に対して、たった小さな部品ではあるけれど、郵送で済ませてしまうと
     いうことが、やっぱり「おとり広告」業者だったということを裏付ける証拠のひとつのような
     気がしたのだ。 普通だったら、家まで届けに来ても不思議はないし、届けに来ないまでも
     郵送で送った旨を電話連絡するくらいのことはして当然なのではないかと思ったからだ。
     でなければ、万が一、途中でトラブルがあった場合、客は店側から品物が発送されたことを
     知らずに、いつまでも待ち続けなければならなくなるではないか。 それとも、最近はちゃんとした
     業者でさえも、そこまでの配慮は客に対してしないものなのだろうか。

     にゃおは、送られてきた「サイドカッター」を使ってみることにした。 布を切りながら端ミシンを
     かける。 とても便利な装置のようだったが、あいにく、試しに使った布地がフリース素材だった
     せいか、切り口がハサミで切ったものに比べて、はるかに悪い切れ味だったので、さっさと
     やめてしまった。 薄地の布になら上手く使えるのかもしれなかったが、のちに、ミシンに詳しいと
     思われる方から、サイドカッターはミシンを傷める原因にもなるから、あまりお勧めではないとの
     主旨のアドバイスをいただいた。 そうなのか・・・ だったら裁縫セットの方がよっぽど使い道が
     あったかな?  またひとつ、苦い思いをしたようで、ため息が出た。

     にゃおは、折を見ては、「ミシンの迷信」へ行き、BBSの膨大な過去ログを読み漁った。
     読めば、さらに落ち込むだけでもあったけど、逆に、にゃおの中にはだんだんとひとつの
     考えが固まってきていた。

     にゃおが買ったミシンくらいの機能を備えた、もっとリーズナブルなミシンはいくらでもあるだろう。
     その点で言えば、まさに、にゃおは、おとり広告にはまったのだ。 
     だけど、実際にミシンを気に入ってしまった。  それでは理由にはならないのだろうか?
     にゃおはもう一度、ミシンを見た。 そのミシンで、すでに4枚のスカートの裾上げをして、
     子供の入れ込み式ゴムの伸びた部分に別のゴムを当てて、上から縫い付けて直してみた。
     どれもスピーディーで、たいした苦労もなく出来上がった。 その出来も、裁縫ベタなにゃおに
     しては、そんなに悪くないように見えた。

     にゃおは、クーリングオフの期限日を黙って過ごした・・・


     「やっぱり愚かだわ。 私だったら、すぐにクーリングオフしたわよ」
     わかってる。
     「ああ、自分の事じゃなくても、くやしい・・・」
     そんな思いをさせてごめんなさい。

     にゃおは、あえて、高い支払いを選んだ。 自分への罰のために。 
     このミシンがある限り、今回の苦い経験が何度でも蘇るだろう。 そして愚かな間違いを繰り
     返さないよう、にゃおに警告してくれるだろう。  幸いに、ミシンそのものは、今の段階では
     調子もよく、粗悪品ということでもなさそうだ。 あとは、元を取るべく、しっかりミシンを使って
     やることだ。  数々の品物の中でも、改めて、ミシンの奥深さと難しさを知った。  それを
     これからに生かさなければならない。

     最後まで読んでくださった貴方に心からの感謝を。 そして、にゃおからの今一度の言葉を。

にゃおのふり見て 我がふりなおせ


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