白鳥の湖

     にゃおの父も母も音楽に深い関心がある人だった。
     物心ついた時に、にゃお家にはでっかいステレオがあったのだ。
     木製で四足。 昔だからレコードプレーヤーだけど、これがすごい。 なんてったって
     何枚もレコードをセットしておいて、次々にかけることができたんだから。 今で言う
     『CDチェンジャー』みたいなものだ。 これが30年以上前に我が家にあったというのだから
     ビックリもんだ。 あの当時、それだけの品物っていったら高価だったんだろうになぁ。
     あの頃、すでにド貧乏だったはずのにゃお家、一体、どうしてそんなものがあったんだか(汗)

     それは、さておいて(笑)  そんな高級なステレオがあるくらいだから、当然、レコードも
     たくさんあった。 今でも実家に全部残ってるけど、中でも優れものが、クラシックの大全集だ。
     バッハだとかシューベルトという作曲家ごとにEP版のレコードが2枚くらいついた装丁もので、
     レコード以外に、その作家の生い立ちや作品の解説などが載った本がついていた。 数えた
     こともないけど実家の2階の本棚にズラリと並んだ状態を思い出してみただけでも20冊は
     くだらないはずだ。

     にゃおは小さな頃から『チャイコフスキー』の『白鳥の湖』がお気に入りだったらしい。
     自分では覚えていないのだけど、母が言うには、このレコードをかけると、ステレオの前で
     一心不乱に聞き入り、時にはみようみまねのバレエを踊ったという。 そして、挙句の果てには
     『白鳥の湖』の全幕を覚えてしまって、しょっちゅう、口で音楽を奏でていたのだという。
     両親とも、この暗記力には驚いたようで、「果ては天才か?」と親バカ振りを発揮したらしい(笑)
     今じゃ、特に有名な場面の曲なら諳んじて言えるけど、全幕なんて覚えちゃいない。

     こんなことがあったせいかのか、にゃおは小学校低学年の時に、父に連れられてクラシックバレエ
     見に行った事がある。 もちろん、『白鳥の湖』だ。 いったい、どういう経緯で見に行く事になったのか
     わからないけど、子供のにゃおの目線からちょっと下あたり、しかも正面に舞台があったような気が
     するから、かなりいい席だったに違いない。
     それまではレコードでしか聞いたことがない音楽が、舞台下にいるオーケストラで奏でられ
     実際にダンサーが舞い踊る様を見るのは子供ながらにワクワクすることだった。
     よく耳を澄ますと、コツコツという音が聞こえる。 なんだろうと、音源を探ってみると、それは
     ダンサーの履いているバレエシューズ(トゥシューズ)から聞こえるのだった。 その時は
     どうしてコツコツ音がするんだろうと思っただけだったが、のちに、トゥシューズの先は固く
     なっているのだということを知り、あの『コツコツ』の謎は解けた。 父が黒い背景に白い
     バレエ衣装をまとった表紙のパンフレットを持っていたはずなのだけど、その中身を見た
     記憶はない。 今、思えば、勿体無い事をしたもんだ。

     その後、クラシックバレエを見に行くようなチャンスも、オーケストラを聴きに行くチャンスもない。
     子供が保育所の年長さんも、あとわずかな頃になってクラシックに興味を持ち始め、あれこれと
     CDを聞いている。 もっと大きくなったらクラシックコンサートを一緒に聴きに行けるといいな。
     そして今更ながらに思うのは、あれこれと、にゃおをいろんな場所に連れて行ってくれた父は、
     一家の大黒柱(夫)としては失格人間だったけど、父親としては、一流の人だったのだという事だ。
     もう70歳を越えたにもかかわらず、今だに夢を追いかけているような人だけど・・・(苦笑)

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