華の命は短くて

     人間は誰でも一生に一度、「モテまくる時」があるのだという。

     幼稚園の年長さんの頃、埼玉の家に引っ越した。 そこに一戸建ての我が家を建てたのだ。
     それまでの平屋の借家とは違う、2階建てで鉄筋コンクリートの家。 芝のしきつめられた
     庭までついている家だった。
     当然、それまで通っていた幼稚園を去ることになる。 そして、新しい家から歩いて数分の
     ところにある、市立幼稚園に編入することになったのだ。 その土地は新しく切り開いて
     造成中の新興住宅地のような場所で、にゃおの家の周りにも、同じくらいの年の子や、
     同級生にあたる子たちがたくさん住んでいた。 母があらかじめ、そんな子供たちの家に
     にゃおを連れて挨拶に行った事もあり、編入した幼稚園では、わりとすぐに馴染むことが出来たのだ。

     1学年2クラスだったろうか。 それほど大きな幼稚園ではなかった記憶がある。
     そして、「それ」はある日、突然、起こったのだ。

     にゃおが朝、幼稚園に行くと(この頃は園児がそれぞれ一人で歩いて登園していたんだよね。
     遠い子は園バスがあったけど)、門をくぐるかどうかの段階で、大きな声が上がった。
     「あ! ○○ちゃんだ!!」←○○ってのがにゃおの本名よ♪
     声の主は多分、隣のクラスだった男の子。 顔はハッキリ覚えているけど名前はわからない。
     ひょろりとした体におかっぱ風のヘアスタイル。 色白で目が細い子だったなぁ。
     その子が走ってきて言うのだ。

     「今日も一段と綺麗ですねぇ♪」

     ちょっと、聞いた? 「綺麗」ですってよ。 しかも5〜6歳のくせに、なんで「ですねぇ」なんて
     敬語使ってんの? そしてさらには、自分の仲間の男の子たちにこう言い放つのだ。

     「おまえたちも、○○さまにご挨拶しろよ!」

     ぐえ〜 「さま」がついたぞ。 なんなんだ、コイツは? 
     その言葉に、次々と男の子が集まってきて、みんなが口々に「おはようございます」だの
     「今日も綺麗ですねぇ」などと、歯の浮きそうなお世辞を並べ立てるのだ。
     にゃおは、その子たちのことをほとんど知らない。 初対面と言ってもいいくらいだった。
     一体ナゼ、こやつたちはそんなことを言うのだろう? 
     それでも、人から誉められることは、例えお世辞であっても子供心に嬉しいものだった。

     それから毎朝、同じことが繰り返された。 さらにはどういうわけか、にゃおがトイレに行くと
     その男の子もトイレにいることが多く、ハタと目が合うと、「いやあ〜 奇遇ですねぇ」だの
     「今日もお綺麗ですね」だの「いや〜 いつ見ても綺麗だなぁ」だのとホメ殺しをしてくれる。
     ただ、毎回だと、なんだか子供ながら気味が悪くて、最後の方はトイレにヤツが
     先に入っていないか、にゃおがトイレに入っている間に、トイレにやってきていないかと
     ビクビクするようになってしまった。(今でいうストーカーだったのか???)

     こうして、この奇妙なモテまくりが約1年間、幼稚園を卒業して小学校に入り、まもなく
     今の地、広島へ引っ越すまで続いたのだった。

     今、考えてみても苦笑してしまう。 どうして、彼はいつも敬語で話していたんだろう?
     多分、大人の恋愛ドラマでも見て、真似してみたかったんだろうなぁ。 だって、普通
     子供は「綺麗」じゃなくて「かわいい」って言葉を使うもんでしょう?
     ま、このにゃおを見初めるなんざ、お目が高いと言ってあげるわ(爆)

     ただ・・・ 悲しいことに、にゃおの「モテまくり人生」は後にも先にも、この時だけだったのだ。
     どうせならさ、年頃になってからとか、大人になってから、この「モテまくり時期」が
     来てほしかったなぁ。 ああ、華の命は短いってホントだわ・・・σ(TεT;)

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