桃色ナイト

     にゃおが結婚するまで住んでいた場所は田舎。
     どれくらい田舎って、にゃおが短大を卒業する頃まで、町内には一軒のコンビニもなかったのだ。
     おまけに町内唯一の公共交通手段であるバスが車庫を出発する市内行きの最終便が
     19時という早さ。 学生なんか、ちょっとクラブが長引いちゃうと、もうバスがなくなって親に
     迎えに来てもらわないといけないのだ。

     当然、逆を考えると、市内中心部にあるバスセンターというところを発車する、にゃお地域行き
     バスの最終便の時刻も早い。  だいたい20時30分頃。 のちに21時10分まで延長されたけど、
     これじゃ、お勤めしてる人なんか、ちょっと残業したり、お付き合いで夜の街へ出たりすると
     もう家に帰る手段がなくなっちゃうのだ。(今現在は何時が最終か知らないけど)

     さて、こんな事情から、にゃおはコンサートというものに行った事がなかった。 コンサートが
     終わる時間そのものが21時近い。 コンサート会場がバスセンターから少し離れた場所にしか
     なかったから、当然、最終には間に合わない。 同級生の中には親に迎えに来てもらったりして
     出かける人もいたようだけど、にゃお母は車の免許を持っておらず、父は中学の頃に
     離婚して家を出ているので、あてにはならなかった。

     短大になって、にゃおと同じ町内以外の友人ができると事情は少し違ってきた。
     その子の家に泊めてもらったりすることができるようになり、にゃおはコンサートを体験する
     ことが出来るようになったのだ。  その中でも特にお世話になったのは、友人S。 彼女の
     お姉さんが市内中心部で一人暮らしをしていたので、コンサート後はそのお宅へお邪魔して
     泊めてもらうことがほとんどだった。 Sそのものも、少し遠い場所にある実家から通って
     いたから、お姉さんのアパートに泊めてもらう方が効率がよかったのだ。

     その日も、コンサートの興奮覚めやらぬ状態で、Sのお姉さんのアパートへ向かった。
     ふと、にゃおは気になって、Sに尋ねる。
     「お姉さんに、今日、泊めてもらうこと言ってある?」
     「ううん、言ってない。 でも大丈夫だから」
     気さくなお姉さんで、いつも快く泊めてくれるとは言え、予告なしに押しかけるのはどうかな?
     しかも妹だけじゃなくて、他人のにゃおまでくっついてるんだし・・・
     一抹の不安を胸に、にゃおたちはアパートへついた。 見上げた、お姉さんの部屋の電気は
     消えている。
     「出かけてるんじゃない?」
     やばいよ。 そうだったら泊めてもらえないじゃん。
     「大丈夫だと思うよ。 寝てるんじゃないかな?」
     Sはあくまでも冷静だ。 寝てるって、時間は22時前。 寝るには早すぎるような気がするなぁ。 
     でも、お姉さんの職業柄、特別不思議なことでもなかった。  人気のない静かなアパートの階段を
     上がっていくにゃおたちの靴音だけがやけに大きく響く。 お姉さんの部屋の前までくると、
     Sはチャイムを押した。 返事はない。 しばらく待って、もう一度チャイムを押すS。
     さらにしばらくすると、かすかに中から人の気配がした。 カチャリと薄くドアが開いた。
     「寝てた?」とSの問う声がする。 「どうしたん?」と少し困惑気味のお姉さんの声。
     当たり前だよね、急に予告もなしに押しかけちゃねぇ。 ちょっと気まずいにゃお。 
     「コンサートに行ってきたんよ。 にゃおちゃんも一緒」
     「え? あんた、友達も連れてきたん?」
     今度は、ハッキリと迷惑なトーンの声がした。 ほらあ〜 やっぱり電話連絡もしないで
     いきなりはヤバかったよぉ。 なんだか申し訳なくて大きい体をできるだけ小さくするにゃお。
     ちょっと待ってて・・・と言ってドアが閉まり、しばらくしてドアが再び開いた。

     電気のついた室内、玄関を一歩入って、にゃおはギョっとした。
     玄関を入ってすぐのところが台所、その向こうに4畳半くらいの部屋があるのだが、
     そこに男性がいて、テレビゲームをしているのだ。

     あ・・・Σ(@@;)?   あ・・・( ̄□ ̄;)!!   ああ〜〜〜(/o\*)

    はい、カンのいい皆さんはもう、ことの次第がおわかりですね(苦笑)

     にゃおたちは、気まずい思いで靴を脱いだ。 男性はにこやかに「こんばんは」と笑顔を向け、
     またテレビゲームの画面に視線を戻す。 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ〜〜〜〜(>_<)
     お姉さんは何も責めるようなそぶりを見せなかった。 誰もが、わかってて、そのことに触れず
     ひとつの空間に居た。 もう、寝るどころの問題ではなくなり、にゃおたちはしばらく
     そのテレビゲームを代わる々にしながら時間を過ごした。

     やがて、お姉さんが、ちょっと出かけてくるねと言って、男性と出かけて行った。
     もちろん、その「ちょっと」は、もう今夜は戻らないを意味していることは明々白々だった。
     正直、二人が出かけて、にゃおは心底、ほっとした。 このあと、二人がどこで過ごそうと
     そんなことは、もうどうでもよくなっていた。
     「やっぱり、今度はちゃんと連絡して来ないとね(苦笑)」
     Sと二人、苦笑いをしたのは言うまでもない。

     その後、何年かして、お姉さんは、その男性と結婚した。 
     よかったよぉ。 もしも、あの時のことが原因で別れることになりでもしたら
     にゃおは一生恨まれるところだったもん。 お姉さん、当時は本当にお世話になりました。
     いつまでもお幸せに・・・(~_~;)

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