濡れ衣

     短大生だった頃の話だ。

     ある日のこと、母が「サバ寿司」を作ってくれた。 これはいわゆる「バッテラ寿司」とは違う。
     サバを3枚におろして短冊状に切り、酢に漬けておく。 それを寿司飯でかっぱ巻きの要領
     海苔の上に広げた寿司飯の上に細長く切ったサバを置き、巻いていくのだ。 他所の家庭でも
     作るのかどうか知らなかったが、母はサバは「当たりやすい」からと新鮮なサバが手に
     入った時だけ特別に作ってくれたものだった。

     さて、その日の夕方、なんの用事だったか忘れたけれど、母とにゃおは揃って家から
     200メートルも離れていない伯母の家に行った。 そこで母は伯母にサバ寿司を作ったという
     話をしたように思う。 そして、夜になり、にゃおたちが早めの夕食を済ませてテレビを見ていると
     突然、勝手口が開いて、伯母の家の息子(にゃおにとってはイトコ)が顔を出した。
     「これ、飲みんさい」と差し出したそれは、ユ○ケルという、高価な滋養強壮剤だった。
     その当時でも一本が600円くらいしたのではないかと思うが、それが3本も入っていた。
     突然のことで困惑する母。 そりゃ、そうだ。 だって、そんな差し入れをしてもらう『いわれ』が
     ないんだから。
     「どうしたん?(どうしてこんな差し入れをしてくれるの?)」と問うと、イトコは驚くべき発言をしたのだ。

     「だって、叔母ちゃん、食中毒になったんじゃろ?」

     はぁ?といぶかしむ母とにゃお。 その表情から何かおかしいと感じたのか、イトコは続ける。

     「にゃおが作ったサバに当たったって、お母ちゃんが言うとったで」

     なんですとぉ〜〜〜???Σ(@@;)
     なんでそんなことになってるんだ?  母はもちろん、にゃおはひっくり返るほど驚いた。
     イトコは誤解ならそれでいいと、とりあえず、差し入れをおいて帰った。 なんでそういう風に
     伝わったんだろうと、母とにゃおは話し合ったがさっぱりわからなかった。

     翌日、伯母から母が事情を聞いた。 なんと伯母は、母が「にゃおのためにサバ寿司を作ったが
     当たったらいけないから、よく酢でしめた」という内容を、「にゃおがサバ寿司を母に作って
     やったら、よくしめてなかったらしい」と聞き違えたらしい(どういう耳をしとるんじゃ(怒))
     さらにそれを聞いたイトコは、すっかりそのせいで「当たった」のだと勘違いして
     薬局へと走ったのだという。 しかも、伯母はその息子の行動を見て、そうか、「当たったのか」と
     さらなる勘違いをしたのだ(あんたら親子は大バカ親子だなぁ〜凸(ーーメ)
     しかも、あろうことか、伯母はそのことを買い物に行った近所の店先で話したというのだ。
     どあ〜〜〜 なんちゅことを〜〜〜 悪い予感しまくりだぁ。

     案の定、母がその店に行った時、店のオバサンが「あんた、にゃおちゃんのサバで当たったんて?
     いけんかったのう(かわいそうだったね)」と同情されたというのだ。 もちろん、母は伯母の
     聞き間違いだと誤解を解いてくれたらしいが・・・

                      『火のないところに煙は立たない』

     ウソばっかりだぁ〜  「冤罪(えんざい)」とは、かくして成立するものかと痛感した出来事だった。

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