睡眠学習枕

     世の中、いろんな学習機材が出回っている。 

     勉強で誰もが困るのは、『暗記』。 勉強した事を覚えていられないってのが悩みのタネなのだ。
     そんな、困ったクンをお助けするグッズもいっぱい発売されている。 暗記力の高まるハチマキ、
     イヤホン型集中力アップ機械。 そんなの本当に効果があるんかいな?と疑いたくなる怪しげな
     品々の中に、それはあった。 『睡眠学習枕』。 それはマクラなのだか、中にカセットを
     入れて再生できる機械が内臓されていた。 人は眠っている間に脳波がどうのこうので、とにかく
     とっても物を覚える能力が高まる・・・という構造を利用した画期的な学習マシーンだと謳ってあった。
     寝ながら頭の下から聞こえてくるカセットの内容が覚えられるなんてすごいじゃん?
     にゃおは、がぜん、興味を惹かれた。 暗記はどちらかと言えば得意な方だったけど
     社会はとにかく苦手だった。 歴史なんて、ちっとも頭に入らない。 年代や、その時に起こった
     出来事なんてサッパリわからない。 これなら、そんな社会も覚えられるかも。 なにしろ社会ってのは
     暗記する以外に勉強法なんてないってくらいの科目だもんね。
     ところが、この『睡眠学習器』、とっても高かった。 にゃおは当時、中学2年生くらいだったけど
     その頃で値段が3万円くらいしたのだ。 そんなの買えるわけないじゃんか! にゃおんちは
     貧乏だったから、そんなものをねだることも不可能だ。 う〜ん、う〜ん。

     その時、ふと気がついた。
     マクラに内臓されたカセットで中身を再生するんだよね。 ちゅうことは何? 覚えたい内容は
     自分でカセットに吹き込まないといけないじゃん?  だったら、どっちにしても録音機械が要る。
     録音できる機械は再生だって出来るに決まってる。 わざわざ『睡眠学習枕』で聞かなくったって
     その録音機械で再生したものを聞きながら眠ればいいんじゃないの?

     にゃおには父からもらった、おさがりのカセットテープレコーダーがあった。 カセットテープ
     2個分の大きさで、録音も再生もできて、当時のにゃおには上等すぎる代物だった。 これに
     自分で吹き込んで聞きながら寝ればいいんじゃん。 にゃおは期末テストを控えて実験して
     みる事にした。

     社会の試験範囲。 それをゆっくり読みながら録音する。 テープレコーダーの録音ボタンを
     押せば録音できる単純なものだから、当たり前だけど、周りの音もひろってしまう。
     できるだけ雑音が入らないように口元近くに機械を持って、教科書を読んだ。 途中で読み
     間違えたり、つっかえたりしないように、あらかじめ、読みにくい漢字にはルビを振ったりした。
     シンと静まり返った夜中に、何度かリテイクを繰り返して『学習テープ』は完成した。
     にゃおは、早速、録音したばかりのテープを聞きながら眠りについた。 

     翌朝、目覚めると、頭の中になにやら世界史が渦巻いているのがわかった(笑)
     うお〜 すげーじゃん。 睡眠学習ってやっぱり効果があるんだわぁ♪ 
     にゃおはご機嫌だった。 頭の中で渦巻く世界史は、消えることなく、にゃおの脳裏に焼きついた。
     それから試験までの3日間くらい、毎晩、カセットを聞きながら寝た。 テストの結果も、80点
     以上は取れてまずまずの成績だったと思う。
     睡眠学習サイコー♪  いや〜 これはいいですわぁ(*^-^*)

     しかし・・・
     にゃおは、その時、ふと思った。
     『学習テープ』を作るために、にゃおは何回か試験範囲の音読をした。 読みを間違えないように、
     つっかえないようにと予行演習をしたのだ。 しかも本番では、より集中して読んだのだから
     記憶に深く刻まれるのは当たり前なんじゃないの? それって、睡眠中に記憶したんじゃなくて
     本読みの段階で頭にインプットされてことなんじゃ・・・? 睡眠学習ってあんまり意味ないかも。

     そう思うと、急に自分のやったことが虚しくなってきた。 だってテープを作るだけで、すごい時間を
     費やしたんだもん。 これからも同じような形でテープを作ることを考えると、とても面倒臭かった。 
     にゃおはそれっきり、『自己流、睡眠学習』をやめた。
     あの時、機械を実際に買わなくてよかったよ。 もし買ってたら、すぐに、ただの粗大ゴミと
     化してたに違いないもんね(* ̄m ̄) プッ

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