トマトはトマト

     学校で楽しみのひとつは給食。
     好きなおかずの日は献立表を眺めながら指折り待って、嫌いなおかずの日は、どうしたら
     それを残すことができるかと無駄な事に頭を使ったもんだ。

     小学校の時、にゃおの給食での天敵は「トマト」だった。
     あの赤くてジュクジュクしたトマトが1/8切り程度の大きさでポンと皿に出るのだ。
     トマトって基本的にはすっぱいじゃない? そして運が悪いとまだ青くて、口に含むと
     独特の青臭さがあるのよね。 あれが苦痛で・・・

     にゃおはピーマンも嫌いだ。 だけどピーマンはどちらかというと細切れ状態で出る事が
     多くて、絶対食べないといけない場合はなんとか食べる事ができた。 それにたいていは
     炒めてあるから何かしらの味がついてる。 他の食べ物と一緒に口に入れて味をごまかしながら
     食べることが可能だった。

     だけどトマトは違う。 今でこそ、イタリアンだかなんだか知らないけど、トマトを煮たり炒めたり
     する料理があるけど、30年近く前で、しかも田舎だと、そんなこじゃれたものがあるわけもなく
     生で出すしかパターンはなかったんだな。

     当時、『給食は残さず食べましょう』ってのがスローガンになってて、給食を残す行為は
     タブーとされていた。 全部食べるまで席を立ってはいけないなんて罰則もあった。
     トマトが献立に載ってる日は、仮病を使ってでも休みたかったくらいだった(笑)

     自分が給食当番の日はできるだけ小さめで、しっかり赤く色づいたものを自分用に
     盛り付けたりした。 誰も見てない時に、こっそりとパンの入ってたビニール袋に入れて
     持ち帰って棄てたこともある。 だけど、そんなチャンスが巡って来ない時は長い間
     トマトとにらめっこ。 アルマイトの皿の上で偉そうに居座ってるトマト。 なんでアンタなんかを
     食べないといかんのよ。 アンタに一体何のメリットがあるっちゅうの? アンタなんか
     食べなくても死なんわい! 無言でトマトとガンを飛ばし合う。 だけどいつまでもにらめっこを
     してるわけにも行かないし、先生も、残していいと言ってくれない。 どうしても腹の中に
     納める以外にこの状況を打開する策はない・・・
     にゃおは先割れスプーンでトマトを突き刺す。 ブチュッと柔らかい部分が飛び出る。
     端っこをちびっと噛んでみる。 ああ、やっぱり不味い・・・

     にゃおの母はトマトが好きだ。 そのままガブリと食いついて、美味しいとのたまう。
     何でこんな美味しいものが嫌いなの?と聞く。 にゃおにしてみれば、何でそんな不味いものが
     美味しく感じるのさ。 アンタの味覚って変じゃないの?って言いたいくらいだ。
     それでも学校で給食がある限り、1月に2回くらいの割合でトマトが出現する。 どうにかしないと
     にゃおはいつも居残りさせられてしまうのだ。

     母がそんなにゃおに「秘策」を授けてくれた。 それは「必殺、砂糖まぶし」だった(笑)
     トマトに砂糖をつけて食べると美味しく食べられるというのだ。 本当かい? トマトに砂糖?
     なんだか気持ちが悪いけど、母が切ったトマトと砂糖を入れた皿を出してくれたので
     恐る恐る砂糖にトマトをつけて食べてみた。 う・・・やっぱりすっぱいじゃないか!!
     もっとたくさん砂糖をつけなくちゃ。 赤いトマトが真っ白になるくらい砂糖をまぶして
     口に入れる。 トマトを食べてるんだか、砂糖を食べてるんだかわかんない。 だけど
     「そのままで食べる」よりは、はるかに簡単にのどを通過した。 おお〜 すごいぞ♪

     これがきっかけとなって、にゃおはトマトが食べられるようになっていった。 もちろん、今でも
     トマトは苦手だし、積極的に食べようとは思わない。 それでもトマトを何もつけないで
     食べることが出来る。 ピーマンだって、納豆だって、子供の時には食べられなかったけど
     大人になるに連れて食べられるようになった・・・というものは多い。 (ただし漬物系だけは
     どう頑張っても克服できないんだけど・・・)

     子供の保育所での給食にもトマトが出る。 やっぱり、子供もトマトは苦手だ(笑)
     にゃおの給食のように生の切ったものがポンと出るわけではないようだけど、子供にしたら
     十分イヤなのだろう。 「○○ちゃん、トマト苦手・・・」と献立表を見て、トマトが出る日を心配する。
     にゃおは母がしてくれたように、子供に砂糖をつけて食べさせてみた。 子供の頃のにゃおと
     まったく同じように、まだ砂糖をたくさんつけないと食べることは出来ない。 それでも、
     保育所では他の子供の手前があったり先生への見栄もあったりで残すことなく食べてるようだ。
     そんな時は必ず誇らしげに「トマト、残さずに食べられたよ」と報告してくれる。

     どちらかと言うと好き嫌いがほとんどない方の子供。
     嫌いなトマトだって何とか食べられるんだから、にゃおの子供の時より、よっぽど優秀だぞ。


     今、にゃお家では毎年、夏野菜としてトマトを植える。 にゃおは別にトマトなんて植えなくても
     いいんだけど、主人が植えると言えば植えないわけにはいかない。 だけどそういう主人も
     トマトは苦手なんだそうだ。 「これ、食べどきよ」と言いながらにゃおに差し出すけど、
     自分は食べない。 にゃおだってトマトは嫌いな部類に入るのだから、収穫されたトマトは
     長い間、冷蔵庫で待機させられる。 なのに「この前のトマト、もう喰った?」なんて主人が
     聞いてくるし、まだ食べてないというと、「せっかく実ったのに勿体無い。 早う喰わんと腐るで」と
     怒られる。 そのくせ、自分は食べようとしないんだからずるいったらありゃしない。
     仕方なく食べるけど、生で何個も・・・ってのは辛いから、よく冷やしておいて「砂糖作戦」で
     一気にカタをつける(笑)  
     トマトを食べたことを知った主人が「よく熟れとったから美味かったろ?」と偉そうに言う。
     そういうアンタはなんで食べないのさと言えば、「わし、トマトあんまり好きじゃないんよね」
     きたもんだ

     ・・・オマエ、ナグルゾ・・・ ダッタラ、トマト、ウエルナヨ!!

     にゃおは心の中で思いっきり手をグーにする。

     トマト、やっぱり嫌いだい!!

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