「お客様は神さまです」

     このセリフ、なんでも演歌界の大御所だった故三波春夫さんが最初に言ったらしい。
     コンサートに来てくださった観客を前に、感謝の意を込めてこの言葉を使ったとか。
     高いチケット代を払ってわざわざ来てくれたことに対して、心の底から感謝感激したのだろう。
     辛い下積み時代があったという。 その中で本当にお客様を大事に思い、愛していた故人の
     人柄が生んだ名セリフだと思う。

     だけど、今はそのセリフがどうも一人歩きしているような気がしてならない。

     スーパーで、ガソリンスタンドで、娯楽施設で、極端に言えば、病院なんかでも・・・
     様々な場所で、自分たちは「お客様」になる(病院の場合は患者さんだけどね)。
     ところが、この「お客様」が時々、「神さま」に変身してしまう。
     一番よく、見たり聞いたりするのは、飛行機や新幹線など乗り物の中。

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     ★飛行機の客室乗務係(CAって言うんですってね)が「お客様」に何か言っている。

     CA:「お客様、まことに失礼ですが、機内は禁煙となっておりますので、おタバコはご遠慮ください」
     客:「うるさいな。 1本くらいいいだろう」
     CA:「ですが、他のお客様にご迷惑がかかりますので」

     このあたりで、「お客様」は「神さま」に変身するのだ。

     客:「おまえ! 俺は客だぞ。 客に対してその口の利き方はなんだ!」

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     ★今度は新幹線の中で、携帯を取り出し大声で話している「お客様」に車掌が話し掛けている。

     車掌:「お客様、まことに失礼ですが、車内での携帯のご使用はご遠慮くださいませ」
     客:「すぐに済むから。 ちょっとくらいいいだろう」
     車掌:「車内にはペースメーカーをつけておられるお客様がいらっしゃる可能性もございますので」

     ここで「お客様」、「神さま」に大変身。

     客:「なんだとぉ? おまえ、誰に向かって言ってると思ってるんだ!
        俺は客だぞ。 客に向かって命令する気か? こっちはちゃんと金を
        払って乗ってるんだぞ。 きさま、何様のつもりなんだ!!」

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     「客」・・・それですべてが許される、素敵な響きの言葉。
     「客」・・・客である限り、何もかもが許される。 だって「客=神さま」なんだから。
     「客」・・・何にも勝る『免罪符』。

     本当に? 本当にそうなのかな? 「お客様」ってそんなに偉いのかな?
     「お客様」って、本当にサービスする側が平身低頭しなくちゃいけないような身分なの?

     どこでもお役所の人間の態度(サービス)が悪いって話はよく聞く。 横柄で人を見下したような態度。
     何かを説明するにも面倒臭そうだったり、こちらが聞かない限り、不利益になるような事は
     教えてくれなかったり・・・ 確かに彼らとの間では、普通のお店であるような金銭の授受はない。
     だけど彼らは公務員であり、否応なしに国民の税金から給料を支払われている。 言い換えれば
     我々国民は立派な「お客様」なのだ。 それがこんな対応じゃ、肩袖めくり上げて、コノヤローって
     思うのも当たりまえ。
     これが普通のお店ならもっとタチが悪い。 こちらが支払う対価に見合わないサービスでは
     やっぱり怒り心頭になるだろう。 客に対してこの態度はなんなんだ!!って。

     あら? やっぱり「お客様は神さま」?

     いや、「お客様」はあくまでも「お客様」であって「神さま」ではないのだ。
     だから「お客様」は何をしたって、どんな無理を言ったっていいってことはないのだ。
     誰だって、一度くらいは品物を提供(サービス)する側になったことがあるはず。
     学校の文化祭で模擬店を出したとか、アルバイトで店員になったとか。 
     そんな時、「客」だというだけの理由で勝手な態度を取ったり、無理難題を言ってきたら
     どう感じるだろう。 恐らく、100人が100人、いやだな・・・と思うんじゃないだろうか。

     言いたいのは・・・
     「お客様」にもサービスを受けるだけの資格が必要だということ。
     無条件に偉いのではない。 お金を払うから偉いのでもない。
     客は客なりの節度とマナーを持っていなくてはいけないのだ。

     買い物中、やっぱり要らないやと、品物を元あった場所に戻さずに、どこでもいいから置いて
     しまう人(ちゃんと元に戻せよ)。 家ではゴミになるからと、店でトレイから精肉をビニール袋に
     入れなおして、肉汁のついたトレイをそのまま店に設置してあるゴミ箱に棄てて帰る人(気持ちは
     わかるけど汚れたまま入れたら悪臭も出るし、あとで始末する店の人にも迷惑だ)。 自分が
     使ったカゴを片付けず放置して帰る人(他の客に明らかに迷惑)。 同じ客でありながら、眉を
     ひそめたくなるようなことを平気でやっている人を見ると、とても憤りを感じてしまう。 
     だからって、妙に客が萎縮して店に対して低くなる必要もない。 その辺の境界線が難しい。

     さて、こんな偉そうなことを言ってるけど、ちょっと自分のことも省みてみなくちゃね。
     お互いに気持ちよく接客し、接客されるよう、心がけたいな。

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