低血圧

     降り注ぐ暑い陽射し。 長ったらしい校長先生の話。 朝の朝礼の風景。

     次第にみんなの気分がダレてきて、ごそごそ体が揺れ始める。 そのうち、ふいに誰かが
     崩れ落ちるように倒れ、先生が駆け寄り、抱き起こす。 ある人は肩を抱かれるように、
     ある人は抱きかかえられて、保健室へと姿を消す。 貧血・・・ 小学校の時から何度となく
     見てきた光景だ。 だけど、人生30何年の歴史の中で、未だ、自分に無縁の光景だった。

     貧血になる人は大抵決まっている。 スリムで顔も青白く、血圧が低い人たち。
     小さい頃から「ぶたさん症候群(要はデブってことだな)」を患っていた自分の血圧は
     下が70台。 上が130台。 低いどころか、高血圧予備軍の先陣を切っている。
     どう考えても貧血になりそうもない。 

     ある日のこと、テレビのトーク番組でアイドルタレントが、理想の女性像について話していた。
     彼らは、美人で折れそうなほどスリムな女性が、貧血で立ちくらみを起こして、ああ〜〜と
     なる姿に色っぽさを感じるとぬかした。 へぇ〜 さいですか。 あたしにゃ一生関係ない
     ことでやんす。 鼻先で笑ってみたものの、想像してみれば、なるほど、はかなげで、
     男性としては守ってあげたいというナイト嗜好を痛く刺激されるのだろう。

     そんなことがあってから、無意識に貧血で倒れる女性に対して、ある種の「妬み」を
     感じるようになった。 もしかしたら、彼女らは男性の目に自分がどう映るかを計算した
     上で倒れるという演技をしているのではないのか? なあんてね。
     図らずも、ある日のこと、とある女生徒が朝礼中に自分が日ごろから思いを寄せていた
     男性教諭が近づいてくるのを見計らったかのようなタイミングで、その男性教諭の腕の中に
     倒れこんだという出来事があってから、ますますその思いが強くなった。  

     ただ、実際に貧血を起こして倒れる人の話を聞けば、倒れるという限界が来るまで
     気分が悪くて、辛くてどうしようもないらしい。 そんな彼女たちから見たら、
     あんたにこの辛さがわかる? くだらないことを羨ましがってんじゃないわよ。 と
     怒られそうだ(苦笑)

     今の年になって、血圧は相変わらず高めではあるけれど、時々、貧血のような、めまいを
     起こすことがある。 おお〜 ついに自分にもあの、憧れの状況が?!
     ただ、問題があった。 貧血でめまいを起こすのは、美人で、スリムで、青白い顔で
     なければならないのだ。 自分は、美人・・・ではない。 スリム・・・なんてほど遠い。
     青白い・・・確かに色は白いけど、血色いいもんなぁ・・・ おまけに、人に貧血が・・・と
     言うと、「あんたの体格で、それはないじゃろう」と笑われる。 けっ・・・

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