翼が折れる日

     「少年の背中には翼が生えている。 その証拠に彼らの足はいつも飛び跳ねていて
     ほとんど地についていることがないではないか」

     どこかのマンガの中に出てくるセリフだった。 だけど、そのセリフがなぜか記憶に鮮明に残っている。 
     その頃は今のようにテレビゲームが発達していなくて子供たちの遊び場が家の中ではなかった
     せいもあったろう。

     確かに成長期の少年たちの身体的な変化には目を見張るものがある。 それは少女の比ではない。
     少女は心と体がどちらかというとバランスよく徐々に変化を遂げる。 気が付いたら大人になっていた
     なんてことが多いのだ。 けれど少年は違うように思う。 彼らはある時期、急激に変化するのだ。
     そう、まさにそれは変身と言って過言ではない。

     某国営テレビ局の教育番組には、小学生から中学1年生程度の子供たちが多く出演している。
     精神は大人顔負けの部分を持ちながら、その表情はどこかあどけない。 けれど何らかの理由で、
     彼ら(または彼女ら)の姿を見なくなることがある。 そしてまたひょっこりと違う民放の
     テレビ番組でお目にかかったりする。 そんな時、少女は、大人びた容姿になっていても
     すぐに「あの時の子」だということがわかる。 ところが少年はそうではない。 「この子だれ?」
     まずその言葉が浮かぶ。 どこかで見たことがあるような気がするのに思い出せない。
     懸命に記憶の森をさまよってみるのだが、どうしても出口が見つからないのだ。
     そして、テロップで彼の名前が紹介される。 え? うっそぉ〜 この子があの子なの?
     瞬時に記憶が蘇り、当時の彼の顔が今、テレビに映っている少年の顔とオーバーラップする。
     どう見ても、別人28号だ(う・・・このギャグを何人の人が理解できるのだろう( ̄_ ̄♭))。
     円形に近い穏やかな輪郭は、細面のシャープな線に変わっている。 背もうんと伸びている。
     肩幅もしっかりあって、全体的に骨っぽくなった感じだ。 もちろん、声変わりもしたのだろう、
     話す声が低くなっている。 

     へぇ〜 ずいぶんと変わったなぁ・・・

     その時、彼の背中にはすでに翼はないのだろう。 彼は少年という、誰かに庇護されながら
     夢みがちに生きる世界から一歩を踏み出したのだ。

     そうして、翼を失った少年は、「男」になる・・・

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