一体どれくら時間がたったのだろう…。

栞が昏睡状態になってから…。

どれほど俺はここに座っているのだろう…?





遠くにある窓…。

そこから見えるのはただ黒い空間だけ。






俺の横では香里、香里の母親、北川と名雪が、疲れてしまったのか椅子の上で眠ってしまっている。


北川と名雪は学校が終わってから病院に駆けつけてくれていた。

ほんと…。
感謝してるよ…。
北川…。
そして、名雪には…。










栞……。

みんな待ってるぞ……。

だから早く帰って来い……!













その時俺の耳元で小さな、ほんとに小さな声がした。

(祐一君)

「えっ?」

(栞ちゃんだったら大丈夫だよ)

「……あゆ…?」

(さ、早く栞ちゃんの所に行ってあげて)

「ちょ、ちょっとま………」

それっきり俺の耳に、小さな声は聞こえてくることは無かった。


















俺は椅子から立ちあがって栞の病室に入った。

そして俺は栞の側によって話しかけてみる。

「栞……」
やはり返事は無かった…。

やっぱり…駄目なのか……。





……!


その時栞の指先がビクッと動いた。

「栞……!?」


そして栞の閉ざされていたまぶたが、ゆっくりと開かれる。


「祐一…さん?」
「ああ。祐一さんだ」

次の瞬間俺は栞を思いっきり抱きしめていた。

「祐一さん…痛いです」
「あ、ごめん」
「でも…嬉しいです。とても…とても嬉しいです」

俺の体に冷たいものが感じ取れる。

それは生きてるって証。
それは嬉しいって証。

それは俺の瞳からも流れていた。





「祐一さん…私…帰ってこれましたよ」

「ああ。おかえり………栞」

そして俺はまた力を入れて栞を抱きしめる。




「祐一さん。私、あゆさんにお礼したいです」
栞の口から出た意外な言葉。
でも妙に納得できる言葉。
「そうだな」




「あゆさん。ありがとうございます」
「あゆ。ありがとうな」






(間に合って良かった…)





その二つの言葉はあゆに届いたのだろうか?


















その後、病室の前で寝ていた香里達を、俺は起こした。



みんな泣いた…。

涙を流して…。
声を出して…。

泣いていた…。









そしてみんなが願ったこと…。


『奇跡』


それはただの言葉でしかなかった…。

そう、ほんの数時間前までは…。

でも…。

言葉が言葉じゃなくなることもあるんだよな。











俺は一人病室を抜け出して、椅子に座った。

そして床に目をやる。


小さな白い羽…。


これは…?


そっか…。


俺はふっと息を吐き出した。
そして上に頭を向ける。
俺の目には天井をすり抜けて、夜の闇が見えていた。



「ありがとな。ほんとに…ありがとな」




(私はなにもしてないよ。祐一君達の信じる心が奇跡を起こしたんだよ)


























この世に天使が舞い降りた日…。

その時、信じた人の願いはかなえられた…。

奇跡という夢のような形にして…。