日曜日の昼下がり。

商店街の入り口に位置するところ。

オレはそこで待っている。

彼女が来るのを…。




<天使の贈りもの>






「北川君、ごめん。待たせちゃった?」
少し息遣いが荒い。
たぶん途中から走ってきたのだろう。

「いや。オレも今来たとこだから」
オレは嘘をつく。
2時間待っていたとは、カッコ悪くて言えなかった。

「それで、今日はなんの用なの?」
美坂がオレに聞く。
「いや…ちょっとな。とりあえず歩かないか?」
「ええ。別に良いけど」

そうしてオレ達は歩き出す。


あと一ヶ月もしたら雪が積もる道。
今は黄色と赤の落ち葉が所々に落ちている。

「もう秋も終わりね」
美坂が言う。
「そうだな…」
オレもそれに答える。

「7年前…覚えてる?」
7年前。
栞ちゃんが死の淵をさまよった年。
「ああ。もちろん覚えてるさ」

「もう7年もたったのね。あれから…」
美坂が懐かしそうに遠くを見つめる。
その視線の先には一つの公園があった。

「へー、こんな所に公園があったんだ」
「あまり地元の人も知らないんじゃないかしら」

オレと美坂はその公園に足を踏み入れる。

「噴水までついてるよ。綺麗な公園だな」
「ここ…栞が大好きな公園なの」
「へー」
栞ちゃんがねぇ…。



噴水の周りにさしかかった所で美坂とオレは歩くのをやめた。

そして美坂が口を開く。
「で…話ってなに?」
「ん?ああ…そうだな。話があったからわざわざ来てもらったんだもんな」
オレはそう言うとポケットからあるものを取り出して右手に握った。
そして美坂と向き合う。


ドクン…。

ドクン…。

ドクン…。

はは…。
心臓が脈打ってやがる。

まるでなにかに背中を、ドンドンと押されてるみたいだ…。



「あ…あのさ…」

ドクン…。

「オレさ……」

ドクン…。

「み……み…」

ドクン…。

「美坂のこと…好きなんだ…」

ドクン…。

「愛してるんだ」

ドクン…。

「ずっと…ずっと好きだったんだ…」

ドック…ドック…。

「だから……」

ドック…ドック…ドック…。

「だから、オレと付き合ってくれ」

ドック…ドック…ドック…ドック…。


心臓が飛び出しそうなほど高鳴っていた。
頭の中が真っ白になっていた。
体の色んな場所が震えていた。

言えた…。
言えた…。

オレは…。
言ったぞ…!


オレの右手に握られたもの。
白い羽。
相沢と栞ちゃんの結婚式のとき、空から降ってきた白い羽。
オレはそれをなんとなく拾って肌身離さず持っていた。
それを必死に握り締める。
その小さな羽に願いを込めるように…。



気が付くと、右手の中の白い羽は汗で濡れていた。

怖いのか…?
美坂の返事が怖いのか…?











「北川君…」


永遠とも思われる時間が終わり、美坂が口を開いた。


「7年前…覚えてる?」


さっきも同じ質問されたぞ。


「あの時…あたし、北川君に助けられたのよね」


えっ?
オレは助けた覚えはないけどな…。


「奇跡なんか起きない、って言った相沢君を殴ったわよね?」


確かにオレは相沢を殴ったけど…。


「その時、あたしも相沢君と同じことを考えていたのよ…」


それが今の状況と関係あんのかよ…。

オレの右手に焦りと不安で益々力が入る。


「だから、北川君に…感謝してるわ…」


オレが聞きたいのはそんなことじゃなくて…。


「栞が助かった後、あたしも一つのことを信じることにしたの」


一つのこと?


「それは………人を愛するってこと…」


人を愛するってこと…。

そして、美坂の顔が紅潮しているのが今やっとわかった。






「あたしも北川君を愛しています。だから…だから付き合おう。お互いこれから時間がかかると思うけど……ね」








オレは今どんな顔をしてるんだろう…?

笑ってるのかな?
泣いているのかな?

でも…。
そんなことはどうでも良かった。

ただ、今は…。
目の前にある現実を胸いっぱいで感じたかった。



そして美坂がオレの頬に短くキスをする。

それはキスとは呼べないキス。

でも確かにオレの頬には美坂の唇の感触が残っていた。



それが…。


オレに起こった小さな奇跡。







他人に言ったら笑われるかもしれない。
他人にとったら当たり前のことかもしれない。







でも…。


オレにとっては最高の奇跡。


























「おい。兄貴」
「兄貴って呼ぶな」

「おい。姉貴」
「姉貴って呼ばないで」

「お似合いですよ。二人とも」

「ありがとう、栞ちゃん」
「ありがとう、栞」

「結局こうなったか」

「どういう意味だ、相沢」
「どういう意味よ、相沢君」

「おっと。そろそろ式がはじまるみたいだぞ」












あの日…。

オレの右手に握られた白い羽は…。

いつのまにか消えていた。

オレに勇気を与え…。

オレの想いと願いをかなえると共に…。






信じたことで結ばれた二人。

自分の想いを伝えるのに多少なりとも時間はかかったけど…。


小さな天使がくれた小さな幸せ。

オレにとっては最高の幸せ。







この幸せが永遠に続くことをオレは信じ、そして願う。







後書き

Believeではカッコ良かった北川君。
ここでもカッコ良くしちゃいました(^^;
小さな幸せってところ、俺のお気に入りです。