待ちぼうけ


栞ＳＳ・・・ジャンル不特定です。

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キラリと、文字盤に陽光が反射する。

所々塗装が剥げ落ち、錆びた部分が見え隠れする鉄塔の上に、
その公園を象徴するような何の飾り気もない時計がついている。

一体いつからその公園にこの時計が立っているのか、誰も知ることのない時計。
ただいつまでも、時の流れをこの公園にあらわし続ける。

その時計の真下に、少女が一人、立っていた。

おそらくは愛しい人との待ち合わせの最中だろうか、
そわそわと落ち着かない様子で、その華奢な腕に似つかわしくない大仰な腕時計を度々のぞき込み、
その時間を確認しては、はぁ、とため息をついたり、
大して乱れても居ないのに、その身に羽織っているストールの位置を神経質気味に直したりと、
その人が来るのを待つと言う行為に、居ても立ってもいられないような、
初々しい印象を受ける。

ひゅうと吹く風に身を震わせ、いかにも寒そうにストールをぎゅっと握り、
自分の小さな体に密着させる。

再び、その視点が腕時計に移り、その後頭上の時計も確認して、何度見ても約束の時刻が
とうに過ぎていることにいらだちを感じ始めたのか、表情がだんだんと曇っていく。


何をするでもなく足下の地面を軽く蹴飛ばす。
跳ね上げられた飛沫がパラパラと飛び散り、青白い光を放ちながら
何事もなかったかのように重力に引かれて地面に落下する。

目の前には、昨日降ったばかりの柔らかい新雪がどこまでも広がり、
唯一例外である自分が付けた一筋の足跡に自分がこの光景を独占している事に気づき、
少女は少し贅沢な気分になる。


すると少女は、何かを思いついたかのように目を輝かせ、その小さな顔の前で手をパンと叩くと、
寒くはないのだろうか、しゃがみ込んで素手でもって目の前の雪をおもむろにかき集め始めた。

さすがに冷たさがしみるのか、見る見るうちに少女の白い手のひらは朱に染まって行くが、
そんなことを気にするふうでもなく、少女はせっせと雪を自らの手元にたぐり寄せる。


しばらくして、鉄塔の下には、ほぅと感嘆のため息をつく少女と、
旅行鞄くらいの大きさの２つの雪の塊が出来上がっていた。

少女は、これからが大変とばかりに、眉間にしわを寄せると、片一方の塊を両手で押し始める。
すると塊はゴロンと押し倒される。
それをまた少女が押し、
塊は倒れ、
それが延々と繰り返され、
少女と雪の塊が時計の下をぐるりと一回りする頃には、少女の腰くらいまではある、
立派な雪玉が出来上がっていた。

少女はすっかり冷えてしまった両手に真白い吐息を吹きかけ、自らの頬に押し当て、
その冷たい感触にたじろぎながらも、
両手に僅かな暖を取り戻したところで、まだ手つかずの方の塊を、先程と同様に押し始める。

今度は慎重に、転がすうちに自らの手でもって角を削り、形を球形に近づけていく。
僅かな時間が過ぎ去り、今度は自分の頭ほどの大きさの雪玉が出来上がった。

形を崩さないように、慎重に、少女は細い腕に渾身の力を込め、その小さい方の雪玉を持ち上げ、
うんしょ、と先程の大きな雪玉の上に乗せる。

出来上がった不格好な造形に手のひらでもって微調整をほどこし、少女は一人頷くと、ふと思い立ったように、どこかへとふらりと歩いていってしまった。

少女は一旦振り返り、待ち合わせの相手のことでも思い出したのか、しばらくためらっていたが、
来ない方が悪いとでも思い直したのか、真っ白なキャンバスに二本目の足跡を付けていく。


時計の針が二まわりか三まわりかした頃、満足げな表情で戻ってきた少女は、小さな手に大事そうに何かを握っていた。

すると少女は、上に乗った方の雪玉についばむような格好で親指と人差し指を突きつける。
その手が離れたあとには、その少女が先程拾った物であろうか、黒光りする、小さな木の実が
はめ込まれていた。

地面に対して垂直な中心線から線対称になるように、もう片方の位置にもその木の実を付ける。

そして、最後に、えい、とばかりにその手に持っていた小さな小枝を円の中心よりやや下の場所にはめ込む。


少女は、出来上がったその様子を前から、横から、後ろから、丹念に眺めた後、
ようやく納得がいったのか、パッと顔を輝かせ、両手をあげて小躍りする。

しかし、ふと気づいた自分の腕時計の針の位置が、待ち合わせていた約束の時刻よりも
４５度ほど右に傾いているのを見て、途端に表情を曇らせ、ややシュンとなる。

ストールを掴む。
そして、羽織り直す。

もう一度、上を見上げ、時間を確認しようとしたその時−−−−


「おーーい、栞ーー」


待ち遠しい、最も愛しい人の声が、少女の耳に届けられた。

少女は嬉しそうに微笑んだ後、はっとしてすぐに顔をぷぅと膨らませ、
声の聞こえたその方向、
愛しい少年の元へ走り寄っていった。


「もう、遅いですよ、祐一さん！」


その様子を、出来たばかりの雪だるまが、楽しそうに眺めていた。




（終）


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F.coolです。

ジョーカーさん、１００００ＨＩＴ、おめでとうございます！

・・・・だというのに、こんな訳の分からないＳＳを送っていいのか（＾＾；

ではでは、今後とも、頑張って下さい〜。

管理者からのコメント

どうも、ジョーカーです。載せるのはずいぶんと遅れましたが、コメントを。

祐一よ・・・。遅れるのは良くないぞ。まあ、仕方ないとして栞が雪だるまを作る光景は

想像できてとても微笑ましいものがあります。しかし、よく読んで見ると、とてもでかい

雪だるまを作っているようで。うぐぅ、少し手が寒そうだけど、まあ、無事に出来て良かったかな。

とまあ、コメントで無いなこれ・・・。なんでいつも工なのだろうかとふと考えてしまうこのごろ。

だあ、愚痴になってきている。では、Ｆ．ｃｏｏｌさんありがとうございました。