今とは少しだけ違う世界。


その世界には死神と呼ばれる者と鬼神と呼ばれた者がいた。


死神は弱き者の為にその鎌を振るい、悪しき魂を狩る者。
鬼神は邪悪なる剣を持って人々を殺し、その魂を剣に食らわせる者。

両者は互いを敵とみなし戦いが起きた…。

長き戦いの果てに鬼神は倒れたが、一振りの剣を残した。その剣は持つ者の精神を支配し、
思うがままに操る呪いの剣であった。死神は自らが持つ鎌を使いそれを封印した。


そして、時は流れ。その戦いが伝承として伝えられる時代…。
東西南北にある四つの大国がひしめき合う世界。
東西の二つの王国が戦争を繰り返していた。戦争は互いに大規模な被害をもたらしたが、
徐々に冷戦状態へと向かっていった。
南北が現状を変えようと協議し同意を得た結果、二つの国は政略結婚を行う事で
平和への道を紡ごうとしていた。物語は、そこから始まる…


「レーナ姫、結婚か」


彼は家に戻る途中、夕刊を買いトップ記事を見た。
そこには、、”レーナ姫結婚!!”と大きく書かれてあった。
レーナ姫とはこの東の国の姫である。。

記事によると、西の国の王子と結婚するらしい。しかし、中には停戦の為の
政略結婚ではないかとの噂も囁かれていると載っている。

また、過激派が停戦を阻止するため、クーデーターを起こそうとしているのでは
との情報まで流れて入るようだ。


「まぁ、政略結婚だろうがなんだろうが。俺には全く関係ない話だな。
 クーデーターは起きない事を願うばかりだ」


一人そう呟く。少し考えたようだがやがて自分には関係無いと
言わんばかりに他の記事へと目を移す。
その時、近くで女性の悲鳴が聞こえた。


「は、離して下さい、わたしは隣国に行かないといけないのです。」
「俺達が連れてってやるって言ってるんだろう」
「い、嫌です。貴方達は信用できません!!」
「へっへっへっ。まぁ、そう言わずによぉ」


傍から嫌がる女の子を男が複数で強引にナンパしているようにしか見えない光景。
三人で女性が逃げられないように囲ってる。


「誰も助けようとはしないか。当然か、武器で攻撃されて怪我したくないもんな」


周りに何人かいるが、誰も男達を恐れて助けようとはしていない。
男達は手にいかにも人を傷つけるような武器を持っているので余計に恐れているようだ。


「ちっ。面倒だが助けるか」


実に面倒そうな顔で男達に近づいていくゼロ。
だが、その眼光だけは鋭い。


「そこまでだ」
「何だ、てめえは」
「そこの女の子の嫌がってるようだからな。助けに来た」
「つまり、それは俺達の邪魔をすると言う事だな」
「ああ」
「じゃあ、痛い目を見てもらう事にしようか」


そう言って三人とも女性から離れ、ゼロを囲む。
本来、ゼロの方が不利なはずだか全く恐れる様子は無く
むしろ、余裕を持って三人を待ち構えている。


「痛い目にあうのはお前達だけだ」
「言ったな。やっちまぇ!!」


三人が鉄パイプ・ナイフ・メリケンサックで、同時にゼロに襲いかかる。
しかし、ゼロはそれらを全く避けようとしない。


「くたばれぇ!!」


ぶんっ!!

そう言って一人が鉄パイプを勢い良く振り下ろしてくる。
ゼロは相変わらずただ立っているだけで全く避けようともしない。
だが、頭に直撃と思われた瞬間、鉄パイプは寸前でいきなり止まる。


がしっ!!


「げぇっ!!」
「遅い」
「ぐっ、がぁっ」

鉄パイプを片手で受け止め、男の身体を持ち上げ地面に叩きつける。
残りの二人はそれを見て一瞬動きを止めた。ゼロはそれを見逃さずに
素早く二人の後ろに移動しに手刀を首筋に叩き込み気絶させた。


「さて……大丈夫か?」
「は、はい」


女の子に近寄り声をかけるが警戒されているのか、不安そうな顔で見返してくる。


「……。恐がられても仕方ないか」
「あ、あの……。ありがとうございます。その助けてもらって」
「礼は良い。そろそろ騎士団が来る頃だろう。その前にここを離れるぞ」
「えっ、でも……」
「いちいち、取調べとかされて時間を潰すのは面倒だ」
「そ、そうですね」
「じゃあ、この場からとりあえず離れるぞ」
「は、はい」



二人は現場から立ち去り、その場には気絶した三人が残されている。
数分後。騎士団が十数人くらい現れ気絶している彼らを連れて
数人は去っていった。残りの者達はその場にいた人間から情報収集をしている。


「隊長!」
「どうした」
「どうやら……」


部下が何かを隊長と呼ばれた男に報告をしている。
その報告を聞き口元を歪める。


「くっくっくっ。そうか……その男の身元と居場所は分かるか?」
「すでに手配しています。数分後には分かるかと」
「ご苦労。引き続き情報収集を頼む」
「はっ!」


部下が立ち去った後、男の元に黒装束に身を包んだ女とフードを被った男が現れる。


「クロウ、連れてきたよ」
「どうも。クロウさん」
「貴様が大臣の言っていた客人か」
「ええ。あの方がどう言って説明したかは知りませんが。その通りですよ」
「ふっ。ただ単に今回は客がいると説明されただけだ」
「そうですか」


その言葉は嘘である。正確には丁重に出迎えろと言われたが、場所が場所である。
不可能というものだ。それに、いきなり自分を訪れるとは予想外でもあった。



「さて、騎士団長はお忙しいようですから。大臣の元へと先に向かわせてもらいますよ」
「護衛は……」
「入りませんよ」


そう言った直後、男は音も無く姿を消した……


「ちぃ、何者なんだあの男」
「さあね。ただ分かっているのは……」
「とてつもなく強いか」
「そうだね」
「まぁ、良い。報告があり次第向かうぞ」
「はいはい」



身を翻し部下の元へと向かう、クロウとエレナ。
彼らはまだ知らない。あの男の正体をそして、その目的さえも。



その頃、ゼロは普段は使っていない隠れ家へと辿りついていた。
外見はただの廃屋にしか見えないのだが……
女性も不安そうな顔でゼロを見る。

「やれやれ、まぁ中に入ってくれ。とりあえず、さっさと出発の準備をする」
「は、はい……」


ゼロに促されて女性は廃屋の中に入る。中は外と違ってまともなので
驚いているようだ。


「中は普通なんですね」
「外は色々とあって。ああなってしまった」
「そうなんですか…」


その色々に関してはゼロは語るつもりはないようだ。
とりあえず、椅子を勧めて座らせる。


「準備と言ってもあんたを守る為に一応武器を持っていくだけだ。ただ……」
「ただ?」
「あんたが何者かだけは知っておきたいんだが」
「そ、それは……」
「正確には確認か。レーナ姫」
「!!」



「家の場所を言えないのは何か事情があるからだろう?」
「はい」
「なら、聞いても無駄だろう」
「……」


その時、玄関のドアが開く。どうやら、もう一人の住人が帰って来たらしい。


「ただいまー。っと、客か?」
「ああ」
「お、お邪魔してます」
「ゼロ、何かしたのか?」
「何もしてない」


俺の物言いから現状を察したのか客に説明をする。


「なるほどね。お嬢さん。こいつ、必要最低限の事さえ喋ろうとしないから。かなりキツイ言い方で
喋ったと思うけど。気を悪くしないでくれるとありがたい」
「は、はい…」
「大きなお世話だ」
「ああ、自己紹介をすると、俺はレオン。で、そいつは……」
「自己紹介ぐらいは自分でする。ゼロだ」
「わたしはレーナと言います。」
「隣国に向かう途中で野盗か何かに襲われたで行方不明になっているレーナ姫か?」


「そっくりだな」
「と言うより、本人だぞ」
「そうか」
「もう、記事になってたんですね」
「レーナ姫、どういう事か説明してくれないか」
「レオン……」


込み入った事を聞くなという意味で呼びかけるが、それは、レーナ姫の次の一言で
あっけなく遮られる。


「構いません。どっちにしても、もう巻き込んだようなものですし」
「という事らしいぜ、ゼロ」
「……。分かった」
「では、どこからお話しましょうか」
「始まりからで良いと思うけど」
「始まりは、私が嫁ぐために隣国に向かう途中の事です。いきなり野盗に馬車が襲われたのです」
「妙だな…いくら野盗が襲撃したとはいえ、護衛の者が居た筈だ」
「はい、襲ってきた者達はその護衛と戦っていましたけど、圧倒的に野盗の方が強かったのです」
「護衛と言っても相当な実力なはずだ」
「ええ。それは私も思ったのです」
「となると一体、何者が」
「一つだけ心当りがあるのです」
「ほう、それは我々の事ですかな」



どがぁ!!



ドアの外から声が聞こえたかと思うとドアを蹴破り漆黒の鎧に身を包んだ何人もの男達が
部屋の中に入りこんでくる。接近していたのに俺やレオンが気づかないとは、迂闊だった。



「大人しくしておいてくれた方が身の為だ。死にたくなければね」
「貴方は…クロウ!!」
「レーナ姫。ご無事でしたか」
「白々しいですね。私が乗っていた馬車を襲ったのは貴方の部隊でしょう」
「ほう、分かりましたか」
「となると、今回の仕業は大臣の……」
「正確には大臣とその一部の側近が行った事ですわ」
「貴方も協力していたの…エレナ」
「ええ。このまま停戦に持ち込まれるよりもう少し戦ってくれた方が喜ぶ人もいましてよ」
「戦争で罪のない人間が犠牲になったとしてもか」


黙っておこうかと思ったが。今の台詞だけ聞き捨てならない…


「くすっ。関係ありませんわね。弱い者は死に強い者のみが生き延びる。それが自然の摂理では
 ないかしら、ゼロさん」
「否定はしない。が、肯定する気もない」
「それが貴方の答えね…レオンさんはどうかしら」
「同じだ」
「そう…じゃあ、貴方達には死んでもらおうかしら」
「エレナ」
「分かってるわよクロウ。勝手な事はするなと言うことでしょう」





「王女を渡してもらおうか?」
「はいそうですかと渡すと思ってるか?」
「なら、し…」


最後まで言い終わる前に近くに置いていた剣を持ち、鞘で叩き殴る。
目的はここから脱出する事。不必要な殺しは避けたいので気絶させる事にする。
しかし、次々と入り込んでくる兵士達を鞘で殴る事で気絶させるがキリが無い。
一体、何人ここに寄越してきたんだ?
長引くと面倒な事になりそうだ…


「どけ…お前等」
「た、隊長」


漆黒の鎧に身を固めた男が出てくる…
雰囲気だけで大体の強さは分かるが、手加減している場合じゃなさそうだな
片手に、巨大な剣を持っているが、この家はあまり広くないので存分に
扱う事が出来ないはずだ。その点を考えればこちらが多少有利か


「姫を渡せば、命は助けてやる」
「断る…」
「そうか。なら死ね」


言うが否や。剣を抜き放ち、振り下ろしてくる。


がきっ!! どがががかっっっっ!!


剣が家の天井に当たり、一瞬動止まるが構わず振り下ろしてきた



「ちっ、家を壊す気か!!」
「そうでなければこの剣は振るえん!! 遠慮する道理はこちらにはない」
「確かに、その通りだな」



何とか、剣を避け態勢を整える。天井は見事なまでに穴が開き崩壊しかけている
この家自体が持たない可能性が充分過ぎるほど高い。
だからといって外に出れば捕まる危険性がある。



「5分か」
「ほう、何がだ?」
「この家が崩壊するまでの予想時間だ…」
「それまでに俺を倒す気か?」
「そのつもりだ!!」


きぃぃぃぃぃぃぃぃん!!


鞘から剣を抜き、それを男に向けて斬りつけるが巨大な剣で受け止められる。
それが数回続いただろうか。遠慮無く相手が剣を振るってくるので
家の崩壊が早まってきている。このままだと生き埋めは確定だ。


「どうした!! 貴様の実力はこの程度か?」
「……っ!!」


一瞬、殺気を辺りに解き放つ。それを感じ取ったのか、辺りにいた夜行性の動物達が
逃げ出す。男の気がそちらに逸れた瞬間俺は、近くにあった手頃な破片を投げつけた


ひゅん!!

「こんな破片で俺を殺せると思って…」
「いないさ。ただ、ほんの一瞬で良かったんだ」


何故なら、俺の狙いは…


「しまっ…」


しゅっ……


剣を首に向けて斬りつけるが、ぎりぎりの所で避けられてしまった。
次の一撃を入れようとしたが、後ろに飛ばれてそれは出来ない。
すぐに態勢を整え直し一撃を放ってくる。


きぃん!!


強いな……このまま戦っていてもこちらが不利か。となると逃げるが勝ちだ。
が、周りも敵だらけでおまけにレーナ姫がいる。
男の部下が手を出さないように注意をしながら戦っているので余計に厄介だ。


「そんなに、姫の事が気にかかるか?」
「人質にでも取られたら厄介だからな」
「安心しろ…俺の部下はそんな事はしない」
「……」


短いやり取り。そして、再び激突しあう。
だが、それはレーナ姫の悲鳴で突如終わる。


「きゃああああああ」
「しまった!! もう一人いたのか」
「エレン、お前が何故ここにいる」


その場にいたのは女…黒装束に身を包み覆面をしている。
男の部下ではなさそうだが、大臣の方か。


「何故とは愚問よクロウ。大臣の命令で姫を連れ戻しに来たのよ」
「攫いに来たのだろう」


皮肉を込めて言うが女はそれを気に留める訳でもなく言葉を続ける。


「余計な事を言うと、姫の命はないわよ。ゼロ」
「……良く俺の名前を知ってるな」
「情報屋のゼロと言えば、良い意味でも悪い意味でも有名よ」
「……」


どんな意味で有名なのか知りたいところだが、そんな余裕はない。



「剣を捨てて、投降してもらうよ。大臣の命令だから殺しはしない」
「分かった」


剣を鞘に収め、地面に投げつける。言葉通りなら、レーナ姫も俺も殺しはしないだろう。
さっきまで対峙していたクロウと呼ばれた男が剣を拾い上げそれを部下に渡す。


「確かに…じゃあ、例の場所に連れていくよ」
「大臣め。俺の楽しみを奪いやがって…」
「それを本人の目の前で言ったら殺されるよ」
「ああ、分かってるさ」


クロウは口惜しそうにぶつくさと言っている。さて、状況は最悪だ。
今はレオンの助けを待つしかないか。目隠しをされ、ロープで両手首を縛られる。
大人しくしておけという事かと思っていたが。強い衝撃を感じそのまま意識を失った。



見なれた風景。かつて住んでいた村…
だが、それは一瞬にして炎に包まれた
殺された両親…そして、漆黒の剣を持つ男
その刃は自分にも向けられ…
そこで、意識が覚醒した。


「あの時の夢か…」


過去の出来事。今でもたまに夢で見る。
だが、今はどうでも良い。
辺りを見まわすと、鉄格子が見えた。
どうやら、牢屋に閉じ込められているらしく、壁には気持ち程度に窓がある。
外には月が出ているので気絶してから時間はあまり経ってないようだ。


「気分はどうだ?」
「最悪だな…」


見張りの兵士だろう。鉄格子越えに現れ声をかけてくる。
クロウと同じような漆黒の鎧に身を包んでいる。
外見だけ見れば強そうだが、実際の実力はそう大したものではないだろう。


「そうか。その最悪の気分も、もうすぐ終わるだろうさ」
「どういう事だ?」
「貴様は、レーナ姫を誘拐し殺した犯人として処刑されるからだ」
「レーナ姫を殺したのか?」


僅かに怒りを込めながら、あえて尋ねる。
答えは予想通りだったが。


「さあな。だが、時間の問題じゃねぇのか」
「……」
「何にしても脱出する方法はないぜ。諦めて朝を待つこった」



どさっ


見張りの兵士はそう言ってこの場を去ろうとする。だが、直後に
鈍い音と共に突如倒れる。そして、倒れた兵士の傍にはレオンがいた。
気絶をさせたのだろう。兵士の懐から鍵を取り出し、開けてくれた。


かちゃかちゃ…


「やれやれ、捕まったのか?」
「……レーナ姫を人質に取られた」
「さっきの会話は大体聞かせてもらった。急ぐしかないな」
「分かってる」
「やれやれ、本気を出さないと厄介だぞ。今回」
「下見の結果は」


答えと言わんばかりに、紙切れと奪われていた剣、黒い布に包まれたある物を投げ寄越す。
紙切れは間違い無くこの建物の地図だろう。剣を抜き、刃こぼれなどが無い事を確かめる。
黒い布に関しては、確かめるまでも無い。本来あるべき自分が必要とする物。
俺の両親が死の間際に俺に託した物。戦場でそれを振るい…そして数多くの命を奪った。
あの男を殺すまではこれは封印する事さえ出来ない…


「二手に分かれて行動するか?」
「ああ。レオンはレーナ姫を助けてくれないか?」
「ゼロ…」
「彼女の前で力を使う必要はない。だが、それでこの状況になったから自業自得か」
「それ以外にもあるだろうに」
「出来るなら殺さずに済ませるつもりだ。今回の一件。普通の人間によるものだからな」
「全くだな…何にしても狙いは大臣一人だな」
「ああ」
「じゃあ、早速行動しますか」
「頼んだぞ…レオン」
「任せておけって」


二手に別れてそれぞれの目的を果たす為に行動を始める…
薄暗い廊下を一気に走り抜ける。ある程度進んだ時、クロウが目前に現れた。



「待っていたぞ、ゼロ!!」
「通してくれないか?」
「無理だな。大臣の元に行きたければこの俺を倒す事だ」
「そうか。なら仕方ない」


剣を鞘から抜き、構える。

「さっさと決着をつけさせてもらおう」
「ほう…大した自信だな」
「無駄話をしている時間すら惜しい。行くぞ」
「ふっ……貴様の実力は大体分かった。この俺に勝てるとでも思っているのか」


そう言いながらクロウも家で使っていた巨大な剣を抜き放つ。


「死ね、災いをなす者よ」
「それは、大臣の方じゃないのか」
「何も分からない人間が口を出すなぁぁぁぁぁぁ」



一気に踏みこんで斬りかかってくるのを剣で受け止める。
衝撃が身体を走り抜けるが、かろうじて堪えきる。



「どうしたどうしたどうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ちぃ…」



力強い剣を次々と繰り出してくる。それを受け流しつつ、こちらも攻撃を
繰り出すがいずれも簡単に受け止められてしまう。



「これが貴様の全力か?」
「……」
「どちらにしても貴様が死ぬ事には変わらんな。姫にも当然死んでもらうが」
「何故、そこまでしてあの大臣に剣を捧げている」
「戦争を起こしてくれるからさ」
「その戦争で罪のない人々が犠牲になるのを貴様は何も思わないのか…」
「それが、どうした」
「なに?」
「所詮、力なき者は死んでいく。それが今の世の道理だ。だが、俺は強い…
 この力を思う存分に振るえる場所を求めている」
「だから、戦争を起こそうとする大臣の傍にいるのか」
「その通りだ。文句あるか!!」
「そうか…ならもう遠慮はしない」
「ほう、どう遠慮しないと…なにっ!!」



辺りに巨大な殺気が溢れ出す…久々に本気を出す事もあって凄まじい事になってるな


「貴様…一体」
「伝説にある鬼神の力を受け継いだ者を追う者。そう言えば分かるだろう」
「なっ、鬼神を追う者だと……馬鹿な!! 実在するはずが」
「お前にとってはそれが真実だろう。だが、実際にいる。お前の目の前にな」


馬鹿な、あれはただの伝承のはずだ…そんな馬鹿な…
待てよ…かつて戦場で目の前に立ち塞がる者を全て斬殺した謎の男。
遠目からでも分かる、返り血を浴びた姿。赤を通り越して黒に染まった剣を持つ。
そのあまりにもの強さ故に鬼神と言われる男がいると報告を受けた事がある。
まさか…そんな事があって…



「ならば、聞こう。鬼神を追っているのであれば何故、貴様はこんな所にいる」
「鬼神を追う事は俺にとって最も優先しなければならない事だ…が、冷戦状態から再び戦争に
 変えようとする人間がいるのであればそれを防ぐ。それと、約束だからな。レーナ姫との」
「なるほど。大したおせっかいな事だな…くだらん」
「貴様にとってはくだらん事だろう。だがな、俺は約束を果たす」
「ふっ、相手が死神ならば不足は無い…かかって来い!!」



その言葉を相手が言い終えた瞬間に一閃…
だが、その一撃は巨大な剣で受け止められる。
衝撃で斬りかかった方の剣が砕け散る。


「ちっ!!」
「遅いぞぉ!!」
「ぐっ…」



クロウの拳が直撃して、壁に叩きつけられる…が受身を取っていたので
そんなにダメージは無い。しかし、剣が砕けたか…仕方ない。


「ふっ、剣を失ったようだな」
「問題ないさ…何故、俺が死神と呼ばれているか分かってるだろう」
「ああ。なら本来の武器を出すが良いさ。死神の武器をな」
「遠慮無くそうさせてもらう」



鞘だけ残っている剣を投げ捨て、背中に背負っていた物を黒い布から解き放つ。
そこから現れたのは漆黒の鎌。黒い布を身体に羽織ったゼロの姿はまさに死神である。


「なるほど、確かに死神だな…」
「……行くぞ」
「なっ、早い」


一瞬で懐に入りこみ、鎌で斬りつける。
本来であれば首を狙うのだが、目的は殺しではないので
あえて、身体を狙う。


「うぉ!!」
「まだだ…」


一瞬にして後ろに飛ぶ事で攻撃を避けられるが関係無い…
それを追撃し、今度こそ鎌で斬りつける



「ぐわぁ!!」
「終わりだ、死天昇」


本来であれば鎌の刃の部分で相手の首を跳ね飛ばす技だが
この場では、柄の部分で喉を突き上空へと飛ばす…
無論は加減はしているが。しばらくの間は呼吸すら出来ずに苦しむだろう。



「っ…ぁっ…」
「終わりだ。加減はしているから少しすれば元に戻るはずだ」
「っ…っ!!」


何かを叫んでいるようだが、聞こえるはずが無い。
さっさと先に向かうか…大臣の部屋への障害はもういないはずだ


「念には念を入れておくか…」


ある技をクロウにかけて置く。効果はそのうち表れるだろう…
改めて大臣の部屋へと向かって走り出した






十数分後…







「がはっ、がはっ、何故だ…何故殺さない!!」
「必要無いからさ…」


背後から足音。そこにはレーナ姫と男が立っていた
ちぃ、あの女…姫の警護は任せろと言っておきながら


「誰だ貴様は」
「奴の相棒と言って良いのかな。レオンと言う」
「必要無いとはどういう意味だ!?」
「……すぐに分かるさ。レーナ姫、悪いけど先に行っててくれ」
「で、でも…ゼロさんとレオンさんは?」
「俺達なら大丈夫、心配は要らない。見張りは誰もいないはずだ」
「わ、分かりました」


レーナ姫が去っていき、この場には自分とレオンという男が残された…


「今の質問に答えろ…必要無いとはどう言う事だ!?」
「俺達の目的はあくまで大臣だ。不必要な殺しは避ける」
「甘いな…」
「そうかもな」
「甘いから死ぬんだぁぁぁぁぁ」


そう言い放って俺は剣をレオンという男に向けて振り下ろした…つもりだった
その瞬間、違和感が身体中に違和感が生じる。


「何だこれは…」


腕が、足が、全てが崩れていく。まるでパズルの様に
身体がバラバラになり、意識が飛んでいく。
辺りが闇に覆われていく。死ぬのか?
俺は死にたくない。死にたくないんだぁぁぁぁぁ



次にさっき食らった死天昇と言う技で自分の首が上空に跳ね飛ばされている姿が
見える。首はあっけなく地面に落ち。凄まじい形相でこちらを見ている。
嫌だ…嫌だ…


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


狂ったように叫ぶ自分が居るのが見える。
何が起きた。俺の身に何が起きた?
視界にゼロの姿が浮かぶ。その姿は先程と同様、死神そのもの。
馬鹿なこの場にいないはずだ。何か俺に喋っている。
何を言っているんだ。


「お前も見ただろう。自らの死の姿を」


その声の直後、視界は光に包まれ、元の景色へと戻る。
身体は何とも無い…今のは一体?



「死神。ゼロはそう言ったと思うが」
「何…」
「あいつがお前を殺すつもりだったら、今見た光景そのままになっていたと言う事さ」
「な、何だと」
「あいつはお前を殺すつもりは無い。だから手加減をした。幻を見せる程度にな」
「くっ…」
「まだ挑むつもりなら、俺が殺してやろう」
「いや、そのつもりは無い。実力の違いが良く分かった」
「そうか…なら俺はゼロと合流するか」
「一つだけ聞きたい」
「何だ」
「あの男の事は分かったが…貴様は何者だ!?」
「俺も鬼神に用があるのさ。個人的にな」







場所は変わり…





「ここか…」


ゼロは手元の紙切れを見て改めて確認する。大臣がいる部屋の扉の前だ。
途中、見張りが何人かいたが全て気絶させた。ゆっくりと扉を開け放った。



「何者だ!!」
「あんたを殺しに来た」
「そうか、貴様。クロウが捕らえたレーナ姫を守っていた奴だな」
「ああ、そうだ…」
「クロウめ、逃げられたのか」
「覚悟してもらおうか」
「ふざけるな!! 死んでたまるか」
「……」


そう言いながらも大臣は恐怖で徐々に後ろへと下がりつつある。
それに対し、ゼロはゆっくりと追い詰めていく。



「一つだけ聞いておきたい事がある…」
「何だ…」
「鬼神、そう呼ばれた男が今何処に居るか知らないか?」
「知らん…知らんぞ」
「そうか。じゃあ、これで終わりだ」


一閃、ゼロが鎌を振るう。直後大臣の意識は闇に飲みこまれた…



「終わったのか?」
「レオンか。ああ、数日間は悪夢を見るだろうさ」
「悪夢を見るだけで終わりなのか?」
「さあな、後は本人次第だろ」
「どういう事だ?」
「連日連夜、悪夢を見る羽目になるんだ。ただでは済まないさ」
「なるほどな」
「じゃあ、レーナ姫を迎えに行くとしよう」
「ああ…」








二人が大臣の部屋を去ってから数時間後…
屋敷は炎に包まれていた。クロウとエレンが謎の男によって一方的に嬲られていた



「な、何者だ…」
「くすくす、この程度の奴にさっさと本気を出さないとは」
「何者だと聞いて…がぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「煩いよ雑魚が」
「ぐぁぁ」
「クロウ!!」
「エレン、逃げろ」
「逃がすわけ無いじゃないか」



ずしゅ…


眼前でエレンの身体が剣によって貫かれた。間違い無く即死だろう



「エレン!!」
「お前も死ねよ」



そして、俺もまた身体を貫かれた…
これで俺も終わりか…
薄れいく意識の最中…最後に見た物それは漆黒の剣


「まさか…貴様は…」






翌日…大臣の屋敷が全焼した事が新聞に載る事になる。
屋敷にいた全員が焼死体で発見される。



さて、これからの出来事はその数時間前の出来事である…







「なぁ、本当にあれで良かったのか?」
「ああ」


結局のところ、二人はレーナ姫を無事に隣国へと送り届けた。
別れの間際、ゼロはとある秘術を使い昨夜の記憶のみを消し去った。
闇の世界に居きる自分達に関わったという記憶を失わせる事で、
その関係を絶ったのである。
今は城の近くにある公園に二人は居た。


「分かってるはずだレオン。もし姫から俺達の事が話されてみろ」
「ろくな事にならんな」
「分かってるじゃないか」
「まぁ、なら良いけどよ。これからどうする?」
「あの隠れ家はもう使えないからな。奴の情報を集めるために別の所に行く」
「それが一番だな…新聞を買ってくる」
「ああ、分かった」


レオンが新聞を買いに行ったので近くにあるベンチにとりあえず座った


「手掛かりはなしか…」
「誰の手掛かりだい?」
「この声…貴様は!!」


背後を振り向くと同時にベンチからすぐに離れる…
手には漆黒の剣を持っている男。間違い無い


「零…」
「くすくす。久しぶりだねゼロ。実の兄を呼び捨てにするのは酷いと思うけど」
「お前なんか兄じゃない」
「おやおや、昔はよくお兄ちゃんって呼んでいたのにねぇ」
「実の親を俺の目の前で手にかけておいて良く言える」
「ああ、あの屑達の事か。まだ根に持って…」




言葉を言い終える前に鎌を奴に向けて振り抜くがその一撃は軽く剣で受け止められる。
力比べになるかと思ったが、すぐに後ろに飛んで距離を置かれてしまった。


「随分強くなったね。あの時はぼろぼろにしてあげたのに」
「当然だ…一度たりともあの時の屈辱は忘れた事はない」



戦場から少し離れた場所。
零を見つけ戦いを挑み逆に半殺しにされた記憶が甦る。
こいつは、常に自分に戦いを挑むのを止めた人間を殺す。
諦めない限り…いつまでも生かしておく。嫌な奴だ…


「やはり、あの屑から受け継いだ死神の力も影響しているのかな」
「……」
「死神は昔から存在していた者。その使命は悪しき者の魂を狩り、弱き者達を助けるだったかな」
「そうだ」
「その割には戦場では本当に殺しまくったよねぇ」
「自分がした事を忘れたのか!!」
「忘れてないよ…ただ、ちょっと君が狩るべき悪しき魂を普通の人間に憑依させただけじゃないか」
「そうなった場合、殺す以外に助ける方法が無いと知っていながらな…」
「もちろんだよ。わざとだから」
「……」
「この漆黒の剣によって殺された者は悪しき魂に憑依される。そういった者達を狩るのが
 死神の役目。何にせよ…それでお前は強くなったんだから良いじゃないか」
「ふざけるな…そんな事で強くなったところで何になる!!」
「僕を殺せるかもしれないよ」
「くっ…」
「その鎌を受け継いだ時点で、すでに逃れられないんだよ。死神と鬼神の戦いの宿命から」
「お前を倒し、その剣を破壊する事で終わらせてやる」
「不可能だよ。この剣は破壊できない。だから、かつて僕達の先祖は封印するだけに
 終わらせた。その鎌に秘められた力を解放してね」



確かに、その通りだ。かつて、家の焼け跡から発見した書物にはどうやっても
漆黒の剣は破壊できなかった故に、鎌が持っていた聖なる力の全てを使い、封印するに
留まったと書いてあった。しかし、封印した影響のせいか。
鎌の刃も同じ漆黒のなってしまったとも…



「それに、僕を倒すのはお前でも。そして、そこに隠れている君でも不可能だよ」


しゅん、きぃん!!


背後の木から何かの影が飛び出し、零の頭に向けてナイフを突き刺そうとするが
あっけなく剣で防がれ、こちらに着地する。


「レオン」
「まさか、人が新聞を買いに行った間に現れるとはな。ようやく見つけたぞ!!」
「ああ、あの時の。確か"自称"最強騎を名乗ってた騎士団の…」
「そうだ…貴様が壊滅に追いやった騎士団の生き残りだ」
「あの時は見逃してあげたのに。命を捨てに来たのかな」
「何!!」
「ゼロと君が同時にかかって来たとしても負ける気はしないよ」
「貴様など…俺一人で充分だぁぁぁぁぁぁ!!」
「レオン、待て!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ」


俺の静止の言葉を聞く訳もなく、レオンは零に向かって突っ込んで行く


しゅん…びゅん!!


レオンの鋭い拳の一撃が零に向けて放たれる。だが、零はその一撃を全く避けているようには
見えない。しかし、レオンの攻撃は全く当たっていない。
傍目から見れば、零が動いていないように見えるだろう。
だが、俺の目には零が必要最小限の動きでその全ての攻撃を避けているのが見える。
レオンも見えているだろう。攻撃の速度を早くして当てようとはしているが
まさにあざ笑うかのように零は避けていく。


「これで、どうだぁぁぁぁぁ」


ひゅっ!!


今までより更に早い一撃をレオンが放つ。流石にこれには驚いたようで
零はその一撃を初めて、大きな動作で避ける。だが、かすめていたようで
頬から血が流れ始めていた。


「へぇ、なかなかいい一撃じゃないか」
「次はぶち当てる!!」



レオンの一撃は更に続くが零はそれを楽しむかのように笑いながら避けていく。
多少ふざけた行為に怒りを覚えつつも今はとりあえずレオンのプライドも
あるだろうと思い戦いの様子を見ておく事にする。



「くすっ、そろそろこちらからも攻撃させてもらうよ」
「レオン。後ろに飛べぇ!!」



どごぉ!! 



「がっ…はっ」
「ごめんねぇ。手加減し忘れたよ」



どさっ!!


一瞬だった。レオンの一撃を避けたと同時に腹にレオンの攻撃スピードを上回る拳を叩きこんだ。
その一撃はあまりにも強烈だったのだろう。その場に倒れこんで気絶してしまったようだ。




「レオン!!」
「安心しなよ。死んではいないから」
「零……」
「この子も随分強くなったものだ。いや、だからこそ生かしておいたんだが」
「どういう意味だ」
「強くなる可能性があり、俺を狙いそうな人間は生かしておいた。ほんの僅かしかいないけど」
「何故だ」
「決まっている。その方が楽しいからだよ。この手で強い者を殺せる。それが……」



きぃん!!



言葉を言い終える前に鎌で斬りつけるが受け止められてしまう。
やはり、こいつだけは許せない。それだけの為にそれだけの為に…


「俺達はお前の玩具じゃない!!」
「良いねぇ。その目。かつてこの剣を初めて取ってあの屑達を殺し、お前に剣を向けた時に
 睨みつけてきた目そのものだ。この僕に恐怖を感じさせ逃げる羽目になった…その目」
「……」
「その目をどうやって絶望に変え殺すか楽しみにしておこう…」
「逃げるのか?」
「くすっ。誰が呼んだかは知らないが。警備隊がこちらに向かっているようだ。僅かながら
 サイレンが聞こえるだろう」
「確かに」
「捕まりたくなければ逃げると良い。それとも僕に全員殺させてでも戦う道を選ぶかな」
「ちっ」


ここで、このまま戦い続けたとしたら間違い無く警備隊を全員殺すだろう。
なら、この場は引くしかない…




「ふふっ。理解してもらえたようだね」
「次に会った時、お前を絶対に殺す」
「その言葉、覚えておくよ。ちゃんと強くなっておくんだよ」



零が姿を消した直後、サイレンの音が近くに聞こえてくる。
俺は倒れているレオンを抱えて公園から逃げるように走り出した。

















後書き…


まぁ、使い魔さんに贈る予定だった奴。
色々と彼方さんに指摘を受けて直してたが。
設定的に破綻したのでこれ以上は無理と判断。
やむなく破棄と言ったところです。
本当はオチまで書いてましたが、これでは切り捨ててます。
これの必要な部分のみ抽出して後は切り捨てた奴を書いて贈る予定。
うまくいくかどうかが問題なだけで(ぉ
とりあえず、〆切もかなり延びたので色々と考えてみます。以上。