奇跡。

起こらないと信じていたもの。

あれから一年が過ぎた。
私は今、自分の病気が治り、忙しくも幸せな学園生活を営んでいる。
二度と迎えられない思っていた時間。
入学式のとき、「友達になろう」と言ってくれた親友と、
私に課せられた現実に、姉と呼ばない事を自分に課し、
そこから解放されたお姉ちゃんと、
新しくできた友達と、
私を本当に心配してくれた家族と、
そして、私の最愛の人と・・・。
そんな人たちと一緒に過ごせる時間。

でもこれは、すべて偶然のもとに成り立っていると思う。
私が生きているという偶然のもとに。
奇跡という物は、起こらないもの。
あったとしても、それは一回だけ。

私の部屋には、小さな人形が飾ってある。
羽の片方と、頭の輪の無い人形。
家の近くの並木道で、1年前に見つけた人形。
それを拾ったとき、私の知っている人の感じがした。
そして、こう思った。
「ああ、この人形のおかげで、私は助かったんだ。」
そしてこの人形は、そのままの形で家に飾っている。
直そうとすると、私が消えてしまう気がして。
そうすると祐一さんと、この天使に願いを託した人が悲しむと思って。

私はそう思った。私が生きているのは、この人形のおかげ。

「奇跡」じゃない。

祐一さんは、
「じゃあ、栞は『奇跡』ってのをまだ信じてないのか?」という。

奇跡。

一度は人がすがろうとするもの。

二度とは起こらないもの。

絶対に起こらないと、私が信じていたもの。

私は1年前、祐一さんに、
「起こらないから、奇跡って言うんですよ。」といった。
なぜなら、この時私にはもう、一つの奇跡が起こっていたから。

私にとっての「奇跡」は・・・


祐一さんに、会えた事だと思うから・・・。

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