その日、俺はなかなか寝付けれずにいた。
特に意味はない。いつもの通り真琴と遊んだら、目がさえてしまっただけだ。
「ひつじが1ぴーき、ひつじが2ひきー・・・」

眠れない。
全然眠くならない。

仕方が無いから起きていようと思い、体を上げた。


と、そのとき。

ガラッ・・・
下の窓があいた音
覗いてみると、そこには窓に足をかけ、辺りを見回す黒装束の秋子さん。

ぽかんとしてみていると、秋子さんは恐ろしいほどのスピードで駆け出した。
興味が湧いたので、そっとついていく。

そこは、工場跡地みたいなところだった。
秋子さんはそこで、人と待ち合わせているようだった。
一体だれなんだ?
そう思ったら、そこに一人・・・だと思われる影。
そいつは・・・

斉藤!?

あの目立たない斉藤が、何故こんなとこに!
いやその前になんで秋子さんと!
そして2人は工場跡の倉庫の中に。

ちょっと待て、頭を整理してみよう。
まず俺は秋子さんについてきて工場跡にいる。
で、秋子さんは斉藤と待ち合わせていた。
んで、2人で倉庫の中に・・・
と、いう事は・・・
あの2人、デキてたのか!?
斉藤の奴、俺に内緒でそんな事を!
俺の立場はどうなるんだ!?

この1ヶ月、アプローチしてた俺の立場は!?
そもそも斉藤って何者なんだ!?秋子さんは一体いくつなんだ?
秋子さんの趣味、特技は!?あゆの奴まだタイヤキ食い逃げしてんのか!?
もはや俺の頭は絶対無いと思っていたダークホースの出現で
支離滅裂な考えをするようになっていた。

すると、2人が出てきた。
斉藤「水瀬さんのお母さん。本当にいつもお上手ですね。」
いつも!?
秋子「いえいえ、斉藤さんのテクニックも相当のものですよ。」
テクニック!?
斉藤「ははは、じゃぁまた今度。」
また・・・今度!?
なぜだぁ〜〜〜〜〜っ!

そして2人は消え去っていく。

俺は何となく倉庫に入っていった。
するとそこには、40代くらいの男がいた。
見てみると、首にはロープの跡。
ぐったりしている。
明らかに死んでいるし、だれが見ても他殺死体だった。

その時思った。
「良かった・・・あの2人ができてるとかじゃなくて。」

数秒後。
「良くねーーーーーーーーーっ!」

なんだこの死体は!?しかも何で秋子さん達この死体を見てあんな態度を!?

更に数秒後。
ちっちっちっちっちっち・・・・
音が聞こえる。
その方を俺は覗き込んだ。
そこにあったのは、爆弾。

俺は逃げ出した。もう必死で逃げた。
どうなってんだどうなってんだどうなってんだどうなってんだどうなってんだ!
一体あの死体は!?まさかテクニックってあの事!?
最悪の事態を免れた後に、もっと最悪の事態。
いや・・・秋子さんがそんなことするわけない。
だってそんな事をする心当たりなんか・・・

あった。しかもたくさんあった。
どう考えても博識すぎるし、例のジャムなんてもろだ。
しかもおっ金持ちぃ☆だし、自分だけ一階に住んでるのも何か変に思えてきたし。
何より名雪が知らない!!

なんで知らないんだ!?
ふつー、
名雪「ねーおかーさん、小学校の宿題で
両親の仕事について作文をかいてっていわれたんだけど、
おかーさんって何やってるの?」
秋子「うーんと・・・私はね・・・。」
とかあるだろ!

いやないにしても両親の仕事ぐらい知ってるだろ!

やっぱり・・・
秋子さんって、殺人者かなんかやってたんだ!!

俺は走った。商店街を駆け、駅前で戻り、学校の屋上へ駆け上がり、
もののみ丘で叫び、並木道から家までダッシュを敢行した。
自分でも何が何だか分からなくなっていた。

気がつくと朝だった。
俺は、自分の部屋にいた。
夢だったんだ。
あれは夢だったんだ。
そう思って下に行く。

あれは夢だったんだ。
きっと何でもないものなんだ。
ただの夢だ。
そう、ただの・・・

「・・・繰り返します。今夜未明、○●町にある工場跡が爆発致しました。
そこから男性の遺体が発見されました。
男性は40代で、いまだ身元は分かっておらず、
警察は事故と殺人のせんで捜査を進める方針のようです。」

「・・・」
秋子「あら、大変ね、うちの近くじゃない。」

秋子さん、あなたの正体、ばっちり分からせて頂きました。
でも俺はいいません。まだ死にたくないから。

ほとんど表情を変えずにテレビを見つめる秋子さんの横で、
俺は何度も心の中で繰り返した。

 

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