近づく足音。
誰かの声。
誰の声?
そう・・・あの人の声。
「遅いよ、祐一君!」
あの人は走ってきた。
ボクは木の上に登って、あの人を眺めていた。
ふと、風が吹く。
その瞬間、ボクのからだから、
すべての感覚が消えていった・・・


 走り寄る君。
何を泣いているんだろう。
ボクは一体・・・。
ふと見上げると、そこにはボクが座っていた枝。
落ちちゃったんだね・・・。
ボク、死んじゃうのかな・・・?
君の声。何とか届く声・・・。
ボクは言葉を放つ。
「約束・・・だよ。」
その瞬間、ボクのからだから、すべての力が、
ゆっくりと・・・でも確実に・・・。
抜け落ちていった・・・。


 ボクは立っている。
広い、ただただ広い砂漠の真ん中に。
 ボクは探している。
その砂漠の中にいるはずの、
ボクの記憶、ボクの意識、ボクの生きる理由・・・。

 冬。
もう一人のボクを探すボクの横を、同じ位の子供達が走りまわっている。
ボクは一緒に走る事もできず、そしてその様子から目をそらす事もできなかった。
皆行ってしまった後、またボクは探し始める。
この砂漠のどこかに、まだボクが待っている事を信じて・・・。

 春。
ふと横を見ると、満開の桜。
ボクは落ちてきた花びらを掴もうとしたけれど、
掴む事すらできず、花びらが落ちる刹那に、僕はうな垂れる事しかできなかった。
消え行く花びらに、ボクが重なる。

 夏。
せわしなく聞こえる足音、絶え間無く聞こえるざわめき。
活気に満ち溢れた街中の音。
ふと振り返ると、そこには無音の世界が広がっていて、
ボクは不安になり、叫び、小さくなって震えつづけることしかできなかった。

 秋。
全てが赤に染まる季節。
目の覚めるような赤が、あっという間に消え去り、
無色の世界が広がりつづけた時、
ボクはボクの世界に時の流れが無い事を痛切に感じた。

 長い、長い時が流れつづける。
2年・・・3年・・・。
ずっと探しつづけても、どれだけさまよいつづけても、
ボクは、自分の影すら見つけられずにいた。
4年・・・5年・・・。
探しつづけて、休む間もなく探しつづけて、
ボクが探していない所が無くなった時、
ボクははじめて、もう一人のボクなんていない事に気づいた。
そして、6年・・・。
もうボクは、待ち続ける事しかできなかった。
ボクの半身を知る人を。
ボクがボクである理由を持っている人を。
7年目。
ボクはまだ待ち続けていた。
心の中の砂漠で、小さな山を作りながら。
ただ、あの人を待ちつづける。
「祐一君・・・。」

 そして、時は紡ぎ始める。
ふといつものように顔を上げると、あの人が歩いていた。
ボクがずっと待ちつづけた人。
もう会えないかもしれないと思った人。
そして、遂に見つける事ができた人。
その人も、ボクの半身を知らなかったけれど。
それでも精一杯生きていく事はできるはず。

 そして、私は戻ってきた。
大好きな人のいる、この世界へ。

 今、大切な人の横で思う。
「幸せって、いつか遊んだ砂場の山みたいだね。
小さな粒を一生懸命集めて、
どんどん大きくなって。
ふとしたことでみんな崩れちゃうけど
また一から、積めるよね。
同じ物は、もう二度と戻ってこないけど。
もう一度、一から積み直す事はできたんだよね。
だからまた、二人で積み直そう。
何年かかっても、頑張って作り直そう。
たとえ不格好でも、ボクには大切な、幸せ・・・。
ね、祐一君・・・。」

 

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